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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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26.フィーナの宣言


            ◇◇        ◇◇


「私、決めたから」


 スーリング祭を終えて一週間。


 スーリング祭の後片付けも、祭典に際しての熱も収まりを見せた頃、フィーナは隣の席のカイルに、覚悟を決めた表情でそう告げた。


 一日の日程を終えて、それぞれが帰り支度を整えている時分の、ひそやかにさざめき立つ教室内でのフィーナの声は、クラスの生徒全員の耳に届く大きさだった。


 そのため、注目を集めるに至っているのだが、当人はそれに気付いていない。


 カイルは周囲の注目も、それに気付いていないフィーナにも気付いていたが、敢えて言うほどのことでもないだろうと忠告を口にすることもなかった。


 自席の側に立つフィーナを、自席より座って見上げながら、小さく息をついた。


「何を?」


「目立たないように我慢したりしないっ。目指すは最優秀成績者!」


 むんっ! ……と意気込みを見せるフィーナだったが「言っている意味がわからない」とカイルは眉をひそめた。そのカイルに、フィーナは説明を始めた。


「私、貴族じゃないでしょ? 目立ちたくなくて、セクルトではひっそりこっそり暮らしていくつもりだったんだけど、最初から無理だったじゃない」


「まあ、そうだな」


 学年でもトップクラスが在席するクラスになっていること自体、すでに注目を集める存在となっている。


「伴魂も珍しいらしいし」


「俺も初めて見た」


「お姉ちゃんも、有名人だったみたいだし」


「『ドルジェの聖女』だからな」


「……そのお姉ちゃんの友人が、まさかの王女様だし」


「知らなかったって方が驚きだったが」


「…………ザイルも、何か有名な貴族様らしいし」


「ベルーニア家は能力もその他でも、何かしら有名だからな」


「~~~~~っ! もうっ! カイルうるさい!」


 一つ一つ感想を述べるカイルに吠えて「ああもうだからっ!」と、フィーナはぐっと拳を握りしめた。


「こっそりひっそりしようとしても、私以外の事でいろいろ目立っちゃってるんだから、私自身が今さらこっそりひっそりしようとしても難しいってことでしょ?

 だったら! 思うように行動したほうが頭から煙出なくてすむってものよ!

 目立たないようにするのって疲れるわ、どうしてかしらね!」


 後半はヤケ気味になったフィーナの宣言を受けつつ、カイルは少々考えた後に「――それで?」と口を開いた。


「なぜ俺に言う?」


 自分の心内で誓えばいいことだろう。そう思って告げた言葉は、フィーナには想定外だったらしく、きょとんと眼を丸くした。


「え?

 ………………。

 ………………。

 ………………。

 …………なんとなく?」


 考えても答えは出なかったらしく、フィーナは小首をかしげつつ、返答した。


 その場のノリのようなものだろう。


 思いながらカイルは嘆息した。成績に関する宣戦布告なのだろう。


 最近のフィーナの、小試験の成績が思わしくないことに、カイルも気付いていた。決して悪い成績ではないのだが、首席合格者と考えると、違和感を感じる内容だったのだ。


 何より不可解だったのは、フィーナが慌てた様子がないことだ。そして間違いへの対応の温度差があること。熱心に教師に質問をするものもあれば、何の興味も示さないものもある。違いが気になっていたところへの、フィーナの宣言。


 これまでの行動と鑑みると、彼女がどういった想いで行動していたのか――。予想できることに少々あきれながらも、これからはきちんと取り組むと言うのだから、気概はそらさないように、以前の行為に関しては何も言わずにおこうとカイルは考えた。


 考えながらも「宣戦布告」を受けてたった。


「悪いが、俺も手を抜くつもりはない」


「そうこなくっちゃ」


 互いに「ふふふ……」と不敵な笑みを浮かべていると、呆れた声が二人の間に割って入った。


「何してるの。周りが迷惑してるわよ?」


 サリアだった。サリアは授業終了後、フィーナを迎えに教室まで足を運んでいた。


 クラス内の、フィーナとカイルのやり取りをはらはらしながら見守っている面々を示唆しての言葉だった。


「サリア!」


 喜んで駆け寄り、ハグの腕を広げるフィーナを、サリアはすいっと交わす。


「なんで避けるの?」


 泣きそうな顔で告げるフィーナに、サリアはげんなりとした表情を見せた。


「人前でそんなことできるわけないでしょう。寮でも時々なら応じられるけど、慎んでと話したはずだけど」


「そうだけど……」


 しょんぼりとするフィーナを、情に流されそうな、いたたまれない表情を覗かせていたサリアだったが、奮起して「それより」と話題を切り替えた。


「早く行きましょう。待たせては先方に申し訳ないわ」


「あっと。そうだった」


 慌てて教科書等バックに詰め込むフィーナに、カイルは怪訝な表情を向けた。


「どこに行く?」


 聞かれてフィーナはサリアに目を向けた。同じく、フィーナに目を向けたサリアは、互いに見つめあって、同時に「ふふふ」とほくそ笑んだ。


「すっごくいいところ♪」


 告げるフィーナにサリアも同意するように笑みを深めた。


 なんだそれは。と、カイルは訝しんだが、返事はなく、二人は連れ立って教室を後にした。


 その二人の背を見送るカイルに「何と失礼な」と声をかけてくる者がいた。


 声の方を見て、眉をひそめる。


 見覚えのない男子生徒だった。


 カイルは立場上、クラスの面々は顔も名前も親の爵位や家族、受け持つ土地柄等を把握していた。


 その中の誰でもない人物に、驚きと警戒心を身の内に宿らせる。


 男子生徒はカイルに最上級の挨拶を送り、自分の名を明かした。


 カイルも耳にしたことのある貴族名であり、隣のクラスの生徒だった。


 自分の素性をつらつらと話して、カイルに対するフィーナの態度を遠まわしに非難しつつ、時間があれば話しができないかと申し出てきた。


 入学当初より、友人関係に関しては城関係の者より忠告を多々受けている。後々のことを考慮して、有力な貴族との間柄は深めておくべきだと。貴族名から考慮すれば、提言に従った方がいい相手なのだろう。


 彼はフィーナの身分不相応の態度を非難しつつ、自分の立場をひけらかしてきた。そうした態度は様々な状況で何度も目にした。何の感慨もなかったのだったが、今のカイルにはなぜか鼻につく言動だった。


 自身はフィーナに能力的に敵わないというのに、なぜ下に見た態度をとれるのか、カイルには理解できそうにない。


「悪いが、所要があるんだ」


 カイルは長くなりそうな話を断ると、教室を出て、教室側に控えていた護衛の騎士に声をかけた。


 見ると、二人常に控えているはずの騎士は一人しかいない。もう一人はと目くばせで尋ねると、残った騎士がにっと口元を持ちあげた。


「エルド嬢の後を追っています」


「そうか」


 つられてにやりと微笑みつつ、カイルの足は自然と速まった。


「いいのですか?」


 教室に取り残された、声をかけてきた貴族生徒にちらりと視線を向けて、護衛が尋ねる。


「いいんだ。あちらには後々、対話する機会は十分にある。が、フィーナは見逃すと今度の機会がいつ訪れるのか、わからないだろう? 価値の度合いでフィーナを優先したのだが……あちらを相手した方がよかったか?」


 お前も興味あるのだろう?


 カイルが暗に含んだ物言いをすると「すみません」と護衛の騎士は肩をすくめた。


「一応、立場上、言っておいたほうがいいのかと思っての提言ですよ。フィーナ嬢は想定の上を行く言動が多いので、目を離せないんですよね」


 愉快そうに話す騎士に、カイルも同意した。


 護衛の騎士は、授業中も教室側に控えているほど終始側に居るので、前詞(アンセル)を唱えない魔法の件も、ダンスの練習でカイルに噴火して怒鳴りつけたことも知っている。


 これまでの状況を踏まえて、想定外規定外だらけのフィーナが「いいところ」と喜び勇んで足を向ける先がどのような場所なのか、気になって仕方ないのだ。


 思いはカイルも同じだった。


 先にフィーナの後を付けた護衛騎士が残してくれた痕跡を辿りつつ、二人はその後を追ったのだった。




フィーナの我慢しない宣言です。

カイルの護衛、名前出すつもりなかったのですが、名前ないとややこしくなりそうですね。

そのうち出すかもです。

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