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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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88.シンという男 30


 柔らかそうな黄金色の短髪に、薄い灰色のような青のような、一見して判別が難しい瞳の色を有している。


 白の――騎士を思い起こさせる衣服で、腰には剣をさしている。


 少年は一人だった。


 一人だが、彼を見たフィーナは無意識のうちに警戒し、身構えた。


 それは傍らのザイルも同じだ。


 業者席に座るアルフィードも、少年を見て困惑していた。


 彼には見覚えがある。


 儀式が成功したと言われた後。


 クラウドと共に来訪した少年だ。


 見覚えある少年に、アルフィードはなぜか、不安で鼓動が高鳴った。


 不安を感じると同時に――なぜだろう、警戒心は感じない。


 不安は、少年が自分を連れ戻そうとすることへのものだった。


 儀式の苦痛を思い出して、体がこわばってしまう。


 少年は静かに歩み寄った。


 警戒するシンやフィーナに目もくれず、アルフィードだけを見ていた。


 距離にして数メートル。


 そこまで近づいて、歩みを止めた。


 そしてアルフィードに向けて手を伸ばした。


「帰りましょう。あなたが居るべき場所に」


「――っ!」


 アルフィードは儀式の苦痛がよみがえって、反射的に首を横に振った。


 アルフィードの反応に、少年は不思議そうな表情を浮かべる。


「なぜ……何を恐れているのです?」


「嫌なものは嫌。あの場所には戻りたくない。

 私は――家に……サヴィスに帰りたい」


 アルフィードの話に、少年は不思議そうに首をかしげた。


「あの場所が、あなたの家ではないのですか?」


「違う! あんなとこじゃない!」


 声を荒げるアルフィードに、少年は不思議そうな表情を深めた。


「……聞いていた話と違うな……」


 そうつぶやくと、アルフィードをじっと見つめた。


 何かを見定めようとする眼差しだった。


「確認したいのですが……私の名はわかりますか?」


「な……まえ?」


 身に纏う衣服、腰に下げた剣から、兵だろうと推測されるが……追手なのだろうが、攻撃意思を感じない。


 少年は何がしたいのか。


 それがわからない中での質問に、アルフィードは困惑した。


 儀式の後。


 クラウドと共に部屋を訪れたが、会話も紹介もなかったはずだ。


 そうして過去を振り返るアルフィードの脳裏に――ふと、ひらめいたものがあった。


「……リュカ?」


 思ったものが、口からこぼれ出ていた。


 自分でも声を聞いて「自分がつぶやいた」と気づいたほど、意図しないものだった。


 アルフィードのつぶやきは、少年にも届いた。


 淡々と、無機質だった少年の顔に、幸福に満ちた笑みが浮かぶ。


「やはりあなただ。――マイ・マスター」


「――え?」


(マスター?)


 主――私が、彼の……?


 アルフィードが、少年の言葉に目を瞬かせた――そのほんの数秒の間に、リュカと呼ばれた少年は、アルフィードの目前まで距離を詰めていた。


 ふっと――気配がかき消えたと思った次の瞬間に、アルフィードの目の前にいる。





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