86.シンという男 28
フィーナは連絡手段として、そのように考えた。
側に居ないときの手段だ。
輪には締め付ける呪文、解除する呪文がある。
その呪文は、所持者限定、道具に作用する魔法なので、伴魂不在でも発動する。
連絡手段があると知り、アルフィードは安堵した。
何事もなく、国境を越えられればいいのだが――。
街の中心部、祭りの主会場から離れるに従い、人気も減っていった。
箱の中のアルフィードも、都度、状況を教えてくれるフィーナの話で、外の状況を把握できる。
フィーナ達と再会して、アルフィードは安心していたものの、不安がなくなったわけではなかった。
国境に近づくにつれ、言いようのない不安は高まっていく。
シンの話を、度々思い出す。
気にしなければいいのだろうが、彼の話を聞いて、アルフィードも同じ考えを抱いた。
「これまで、何もないのが不思議でな」
続けて、彼はこう言った。
「俺だったら闇雲に追跡するより、確実なとこで待ち構えるな」
その確実なところまで距離があるので、すぐにでもアルフィードを手に入れたいだろうから、追手がかかるとシンは考えていた。
それを考えて、多数対少数の場にならないよう、道を選んでいたという。
ここに至るまで、一度も追手がなかったとなると――。
「どこで……待ち構えていると、思うのですか?」
フィーナ達と合流する前、その話の流れでアルフィードはシンにきいた。
シンは苦笑交じりに答える。
「関所だろうな」
関所。
国と国との境に存在し、通行許可証等、国を渡るに際して確認を行う場所。
何をするにしても、身分証が必要だ。
通常、提示は必要ないが、相手が何かしら思ったところがあると、提示を求められる。
その際、提示する身分証は、関所で提示するものだ。
どのような仕組みか明かされていないが、その身分証で正規入国か非正規入国か、わかるという。
関所での手続きが関係しているのだろうと、シンは言う。
アルフィードがアブルード国に入国した経緯も、シンは訊ねていた。
アルフィードの話から、サヴィス王国で所有する身分証に影響はないだろうと推測する。
アブルード国で、アルフィードの身の回りのことは、使用人がしていた。
アルフィードは、身分証がなくとも生活できていた。
それは一般社会との関係を絶っていたから、成り得たものだ。
オーロッドと共に入国した時、アルフィードの身分証は必要なかったのだろう。
――位の高い、貴族の指示に、関所の者も従っただけでは。
入国時の話を聞いて、シンはアルフィードを荷物に隠して国境を越えようと考えた。
密入国者への対策は、関所での身分証の更新だ。
密かに他国に入国しても、正規手続きをとらなければ、いつかどこかで身分証の提示を求められ、ボロが出る。
密入国者は、大概初期に見つかる。
言葉、生活習慣。
それらの違いに周囲が気づくからだ。
密入国者は、どの国も「犯罪者」となる。
正規手続きをとらないことで、様々な弊害が起きる。




