85.シンという男 27
フィーナとしても不思議だった。
アルフィードはマサトに一定の理解と信頼を寄せつつ、苦手意識があると感じていた。
そのアルフィードがマサトを気にしている。
何か、話があるのだろうか?
「ちょっと……聞きたいことがあったから……」
アブルード国で、兵として暮らしていたマサト。
彼ならルーフェンスの巫女、クラウドについて、何かしら知っているのではと思ったのだ。
フィーナは「ん~~」と目を閉じて渋面する。
「近くに居るような……居ないような……。
気配は感じるんだけど……なんかモヤモヤしてるんだよね」
主と伴魂の繋がりで、気配を探ったようだ。
元々マサトは「常に側にいる」伴魂ではないので、フィーナも伴魂不在を気にしていなかった。
……ただ。
「結局、あの人とも会わないままなんだよね……。
マサトも『タイミング悪すぎ』って愚痴ってたけど。
もっとどうにかできないの?」
あの人とはシンのことだ。
シンはフィーナ達の前に、予告なくふらりと現れる。
待ち合わせしても約束した時間は大まかなので、シンとマサトが居合わせる状況に至っていなかった。
フィーナとしても、マサトに「シンが信頼できるかどうか」見て欲しかったのだが。
「私に言われても……」
そうしたやりとりを知らないアルフィードも、困ってしまう。
「けど……マサトが居なくて大丈夫なの?」
アルフィードもここに至ってフィーナの身体的能力を、半信半疑ながら認めている。
マサト不在を心配するのは、フィーナ自身の身を守るために必要だと思ったからだ。
フィーナは高い魔法の能力を有していると聞いている。
アルフィードは数えるほどしか見たことがないが、それでもフィーナが魔法の能力が高いとは半信半疑だった。
魔力が高かろうが低かろうが、自己防衛には必要だ。
伴魂が側にいなければ、魔法が発動は困難なのだから。
「大丈夫。どうしてもの時には――戒めの輪、使うから」
告げたフィーナの声には、幾分かの緊張が含まれていた。
マサトがフィーナの伴魂となった初期から、アルフィードによって装着した戒めの輪。
伴魂を――マサトを制御する目的のものだったが、幸いにも使用する状況に至ったことはない。
戒めの輪は、伴魂の行動を制御する道具であると同時に、使いようによっては連絡手段に応用できると、フィーナ達は思っている。
意識下の呼びかけがうまくいかなかったときは、戒めの輪を使用して意思疎通をとろうと、フィーナとマサトは話していた。
戒めの輪は、束縛の呪文を唱えると、伴魂が身につけた輪が急速に締め付けられる。
慌てた伴魂が主の側に舞い戻り、主もそれを確認して戒めを解除する――。
フィーナは連絡手段として、そのように活用しようと考えた。




