83.シンという男 25
主線のパレードに感化され、街の人々も浮き足立っていた。
歓声響くパレードを横目に、シンは慎重に荷馬車を進めていた。
大通りを少し外れた道へ手綱をきり、次第に賑やかな街の喧騒から離れていった。
主要な通りから一つ、二つと奥まり、街の人々の生活感漂う住宅区域に着くと、シンは業者の席から、荷馬車側から業者席の側にある荷物の一つをノックした。
その荷にアルフィードは隠れている。
アルフィードは箱の蓋をわずかに持ち上げて、シンを確認しつつ周囲に目を向けた。
「――もうすぐ合流地点だ」
フィーナ達との合流が近い。
潜めた声で告げるシンの言葉に、アルフィードは我知らず息をのんでいた。
フィーナに会える。
それは無理矢理連れてこられたアブルード国から離れられる意味あいもあった。
昨晩、シンから聞いていたのは、彼が仕事上、依り代としていた住宅での合流だった。
互いのタイムラグを微調整するには、他者が立ち入れない場所で待ち合わせするのが最善だろうと、シンとフィーナ達が話し合っての結論だった。
アルフィードも異論はない。
今はただ――フィーナに会えて、サヴィス王国の雰囲気を感じられれば、それだけで満足できた。
シンから合流地点が近いと合図があって数分後。
馬車は動きを止めた。
馬車が止まったのを感じて、アルフィードはそっと箱の蓋を持ち上げて周囲を観察した。
業者席にいたシンは席から降りて、近くの家に向かっている。
古くも新しくもない、街の住宅街の一軒家の、馬車庫に乗り付けたシンは、馬車庫の皮膜を下ろして周囲からの目線を排除した。
家の内部を確認してアルフィードが潜む箱蓋を開ける。
「着いたぞ」
シンの手を借りて箱から出て、家屋に足を進める。
アルフィードは小さな期待で、胸の鼓動が早まっていた。
家屋に通じる扉を開いた先にフィーナ達がいるのでは――。
早鐘をうつ鼓動、その大きさを感じながら、開いた扉の先に――。
リビングとダイニング併用の部屋で、長方形の机に向かって座るフィーナが見えた。
フィーナは、対面する誰かと話をしている最中だったが、視界の隅で開いた扉に気づいて、その方に反射的に目を向けて――。
見た先に、探していた姉を見つけて。
数秒硬直した後、アルフィードに向かって駆け出した。
「お姉ちゃんっ――!!」
涙声で抱きつく妹に、アルフィードは妹を抱きかえしながら「体は大丈夫か、けがはないか」との質問に顕著な体調不良はないと答えた。
フィーナの安堵が、触れた体から伝わってくる。
アルフィードをきつく抱きしめていたフィーナは、姉の無事を確認すると、すぐに意識を切り替えた。
姉から離れたフィーナは、ふと、アルフィードの姿に首をかしげる。
「それ……」
「隠していた方が、いいらしいから」
アルフィードは帽子を目深にかぶり、結い上げた髪を帽子の中に隠している。
服も男子用を纏っていた。
「嬢ちゃんの髪色は、この国では珍しいから」
アルフィードに続いて入ってきたシンが、代わりに答える。




