82.シンという男 24
シンの話はこうだった。
ラセンタでフィーナと合流し、経路を確認する。
祭りの最中なので、普段通れる道が封鎖されているかもしれないためだ。
人通りの少ない道を選び、アルフィードは荷物に扮して国境を越える予定だった。
フィーナ達はその後、別で国境を越えるという。
「一緒ではないのですか?」
合流すると聞いて、共に国境を越えると思っていた。
「合流後、途中までは一緒だ。
護衛も兼ねてるから」
「護衛……」
つぶやくアルフィードに、シンは眉をひそめた。
「正直、これまで手出しがないのが奇妙でな。
何かあったら応援を頼めるようにはしてたんだが……」
一般兵数人なら対処できても、手練れ数人、もしくは一般兵十数人となると、シンも対処しきれない。
もしもの時の手段は講じていた。
ラセンタに着くまでに追手があると思っていたのだが。
襲撃もなく、その気配も感じないのが奇異だと、シンは告げる。
アルフィードはシンの話を聞きながら、セレイスとプリエラを思い浮かべた。
セレイスの頼みを報告する機会もないまま逃亡したので、口約束は宙に浮いている。
セレイスは頼みに応じれば、サヴィス王国に戻る手助けをすると言っていた。
この状況ではどうなるのだろうか。
アルフィードはセレイスとプリエラを気にかけていた。
囚われ人が、とらえた人たちを気遣う――。
奇異だとアルフィードもわかっている。
わかっているが、湧き上がる気持ちはどうにも止められない。
セレイスが知りたい情報を、おそらくアルフィードは持っている。
アルフィードが知るものがセレイスにどれほど有用かはわからないが、彼は知りたいはずだ。
ルーフェンスの巫女。
アブルード国。
従魔の儀式。
儀式を統括するクラウド――。
クラウド。
彼がセレイスの知りたい情報の核だろう。
彼がアブルード国でどのよううな地位にあり、権限があるのか。
詳細はアルフィードもわからない。
機会があればセレイスに伝えたい。
結果、彼に善しとなるか悪しとなるか、どちらかわからないが、知らないままは嫌だろうと思えた。
当事者のアルフィードと同じように。
(ルーフェンスの巫女……)
魔力の強い魔獣を呼び寄せ、従える者。
儀式を経験した今でも、アルフィードにはその認識が希薄だ。
儀式によって魔獣を覚醒させ従えるようだが、成功したのは一度だけ――。
非効率な「ルーフェンスの巫女」にアブルード国が執着するのも、アルフィードには理解できなかった。
その後、アルフィードはシンと「襲撃を受けた時の対処方法」を細部まで話し合った。
アルフィードにできるのは「身を潜め続ける」だけだ。
フィーナが悲鳴をあげようとも、阿鼻叫喚の地獄絵図を思わせるやりとりを耳にしようとも、あてがわれた箱内部に身を潜め続ける――もしくはシンの合図があるまで外に出ないようにときつく言われた。
そうしたやりとりをした翌日。
祭り当日を迎えたラセンタは、熱気に満ちていた。




