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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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25.スーリング祭【了】


 カイルとアルフィードのダンスが一段落して、互いに礼をとって終了の挨拶を交わす。


 息の荒いカイルに、アルフィードはにっこりとほほ笑んだ。


「ずいぶんと上達されましたね」


 アルフィードの賛辞に、カイルの表情が一層輝いた。


 そうしてカイルはアルフィードと雑談混じりの話をした後、オリビアに目を向けて周囲を見渡した。


「新しい騎士が護衛につくと聞いていましたが――」


 視線の先にいるのは、フィーナの伴魂に近づこうとするディルクと、嫌がっているらしい白い伴魂、ディルクから自身の伴魂を背に庇うフィーナの姿だ。


 ディルクは見知っている。ザイルの弟だとも聞いてる。


 ディルクのほかに、新顔が護衛につくと聞いた時、カイルは驚いた。


 聞けば平民だという。王族主体の祭典に、入隊して間もない新人が警備にあたるなど、例を見ない対応だ。オリビアが能力をかっているのだろう。


 アルフィードはオリビアの騎士団によく出入りする。所属する騎士の面々と顔を合わせる機会も多い。


 オリビアの騎士の面々は把握しているが、新人はまだ見ておらず、どういった人物なのかと、カイルは心穏やかではいられなかった。


 スーリング祭で新人がオリビアの警備にあたると聞いて、あとで確認しようと思っていたのだが……それらしい人間は見当たらない。


 カイルの言葉に、アルフィードは明らさまに顔をしかめた。


「知りません。そのような者など」


「……アルフィード様?」


 不機嫌を露わに、ぷいと横を向くアルフィードに、カイルが怪訝な表情を浮かべた。


 カイルとはオリビアが親しくなってから、時折々の交流を持っている。


 いつもそつなく、穏やかな応対を見せるアルフィードの、子供っぽい仕草に、カイルは面食らって驚きを隠せなかった。


 カイルの声でアルフィードも我に返った。


「申し訳ございません。殿下のおっしゃる者は、サリアからフィーナの伴魂の事情を聞いた折、ザイル様を手分けして探した時から見かけないままなのです。ディルク様なら統括なされていたので、事情を御存じかもしれませんが」


 後に知った情報では、急用ができたからと途中退席したという。


それはそれでアルフィードの逆鱗に触れることになるのだが、いずれにしろそれは後の話であった。


 カイルとしては、護衛が役目を担わない状況に驚きつつ呆れつつ、そうした心情ながら、突飛なことを考えるオリビアのことだから、彼女から何か別件を頼まれているのだろうかとも考えた。


……後に、過大評価だったと知るのだが。


「……殿下」


 アルフィードはカイルとの距離を詰めて、そっと小声で話しかけた。


 近づいたアルフィードに、カイルは跳ねあがった心の臓を感じつつ、対面的には平静を装ってアルフィードに応じた。


「なんでしょう」


「以前から申し上げておりますが、私のことなど、敬称を付けずにお呼び頂いて構わないのですよ」


 言葉としてはカイルに判断を委ねる「提案」だが、実質「そうしてほしい」との懇願でもあった。


 これまでに幾度となく聞いているアルフィードの言葉だ。


 幾度も同じことを告げるアルフィードと同じく、カイルの返答も決まっていた。


「私がそうしたいからしているのです。敬意を払う相手だと思ってのことです。

 ……心配なさらずとも、時と場所を使い分けます」


 困った表情をのぞかせるアルフィードに、カイルは苦笑して付け加えた。


 アルフィードが望んでいる状況は理解できるのだが、それを知ってなお、カイルとしてはアルフィードに敬称をつけるのをやめたくはない。


 それほどカイルにとって、アルフィードは特別な存在だった。


(あなたはわからないだろうが……)


 今でも鮮明に覚えている。


 オリビアの友人として初めて対面した時も。


 その後でも、王族として自信を持てなかった自分に、卑屈にならなくてもいいのだと光を示してくれた――。


 深い意図なく交わされた会話、交わされたやりとりだとわかっている。


 だからこそ、カイルの心に響いたのだ。


「王太子」でなく「カイル」個人に向けられた言葉が、彼を奮い立たせる原動力となっている。


 焦がれる想いは、成就しないものだとわきまえている。


 わきまえているが、彼女の周囲の状況は、どうしても気にかかる。


 そうした想いを抱えつつ、カイルは、自分が憧れの女性の妹に、当初気付かなかったとはいえ、しでかした数々の素行を悔やみ続けてもいた。


 アルフィードは「ドルジェの聖女」との二つ名で語られることが多く、ファミリーネームの「エルド」はほぼ耳にしない。


 そうした状況の中、入学式に関して、本来の首席合格者が「フィーナ・エルド」だったと聞いていても、アルフィードの妹とは思い至らなかった。


 と、いうより、市井出身者が同家族続けてセクルト貴院校に入学するなど、これまでになかったのだ。


 「市井出身者=もしかしたらアルフィードの妹」と考える状況ではなかった。


 フィーナがアルフィードの妹と知ったのは、サリアが寮の同室者とひと騒動あってからだった。


 寮でのひと騒動があってしばらくしてから、サリアがそっとカイルに教えてくれたのだ。


 サリアとカイルは小児校、中児校時代、アルフィードに憧憬を持つ者同士として意気投合していた。


 後でサリアがカイルの身分を知って、少々疎遠になった時期もあったのだが、互いに心酔するものを語れる相手として、交流は続いていたのだ。


 サリアの気遣いをありがたく思いつつ、自身のふがいなさに打ちひしがれていた。


 これ以上、フィーナに当たる行動は慎めるが、これまでの行動は取り消すすべもない。


 カイルは一人、勝手に落ち込む日々が続いたのだが、当のフィーナが細事にこだわる性格ではなかったことに救われた。


 一度、きちんとした謝罪を述べるべきだろうと思いつつ、実現できないまま、今に至っている。


 久しぶりに応対したアルフィードに、自身の想いを再認識しつつ。


 スーリング祭を終えた控室で、しびれを切らした使用人たちに退室を促されるまで、在席する面々は思い思いの行動をとっていたのだった。




やっと終わりました、スーリング祭。

当初、予定していたメインの出来事はできませんでしたが、いろいろ明らかになること、できたので、とりあえずは結果オーライ、かな?

オリビアの素性、王族一家、ディルク、伴魂との和解、カイルの恋心。

長くなったスーリング祭ですが、状況とを加味した設定は書けました。

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