80.シンという男 22
姉の――アルフィードの救出を。
「その為に来たからな」
苦笑して告げるシンに、フィーナは白旗を上げた。
「お願いします」
深々と頭を下げるフィーナに、シンは苦笑する。
「善処するよ」
その後、シンとフィーナ達は互いの情報を確認した。
アルフィードの状況を考えると、鍵のかかった部屋、錠のついた何かしらにつながれている可能性がある。
シンがアフィード救出に手を上げたのは、針金一本で鍵を開けれるからでもあった。
なぜそのような技を。
不審がる面々に「施錠されている鍵のない商品を取引することもあるから」とシンは弁明する。
そうした物に対処するうちに自然と身についてしまったのだそうだ。
そのような話を続ける中、情報としては、シンが有するものが有益だと判明する。
シン単独でも救出可能では。
そうフィーナが思うほど、知識、情報は多方面を網羅している。
フィーナの言葉に、シンは反論した。
「助けになる人間は多い方がいい。
仕事仲間はいるが、兵と戦える知り合いはいないからな」
仕事絡みの面々には、戦闘が絡む件は頼めないのだという。
その点、この場に同席する面々は荒事にも対応できる。
臨機応変な柔軟性、武術剣術の確かさをシンは評価していた。
そうして。
アルフィード救出作戦が決行されたのである。
◇◇ ◇◇
シンからフィーナとの「腕試し」を聞いたアルフィードは額を押さえた。
無茶はしない妹だ。
フィーナはシンに勝てる自信があったのだろう。
現役騎士に勝つ自信がある学生もどうかと思うが、フィーナはこれまで、周囲の想定を越えてきた。
渋面のアルフィードと違い、シンは愉快げに笑う。
シンの話を聞いて、アルフィードはなぜ彼が派遣されたのか納得した。
アブルード国に渡国経験があり市井に詳しいだけでなく。
鍵を開けれる等――場合によっては罪となる行為すれすれを必要に応じて実行すると、オリビアは判断したのだ。
変わった人だと、アルフィードは思う。
(この人が騎士――)
身分は一般庶民、仕事は商品販売。
貴族社会との接点は皆無であるはずの人。
実力はあるものの、騎士になれる身分ではない。
その彼が騎士となっている不可思議さ。
(フィーナの腕輪を買ったお店で会って――)
買った物を盗まれて、シンが盗人を捕縛してくれた。
それを見たリーサスが、シンの武芸に惚れ込んだ。
リーサスの執拗な勧誘に根負けして、シンは試験的に騎士団に入った・・・・・・。
(――あれ?)
そうした流れだったはずだ。
アルフィードはなぜか・・・・・・腕輪を買った店でシンを見たときから、彼が疎ましかった。
初対面なのに。
それなのになぜか心がざわついて、それが・・・・・・。
(――――?)
何かに似ていて――けれどそれが何かはわからない。
腑に落ちないまま、国境近くの街「ラセンタ」に到着した。
アブルード国とサヴィス王国の間にはいくつかの国がある。




