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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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78.シンという男 20


 フィーナと対峙しつつ、シンは周囲を注視ししていた。


 フィーナは場も利用する。


 突出した小岩にシンを誘い、躓かせようとしたものの、シンは見透かし、小岩を避ける。


 当人同士しかわからない攻防が続いて、澄まし顔だったフィーナも、次第に渋面を深めていった。


 これまでと違い、思い通りにいかない苛立ちがあったのだろう。


 無理に攻め込む一手を繰り出したものの、焦りのためか粗雑なものだった。


 弾いて、胴薙ぎを振るうシンに、ハッとしたフィーナはとっさに叫ぶ。


燃矢フェロス!」


 それは魔法を学ぶ者が最初に習得する、初歩的な攻撃魔法だった。


 セクルト貴院校で魔法の授業はあるものの、攻撃魔法は限定して指導している。


 燃矢フェロスはその一つで、初歩的でかつ、一般的なものだ。


 殺傷能力は乏しいが、直撃すれば無傷ではすまない。


 魔法を使わない。


 そう取り決めした中での魔法の使用。


 取り決めを反故しているが、フィーナはとっさに唱えてしまったのだろう――。


 切羽詰まった状況だから仕方ない――。


 そう考える面々の中、シンだけは違った。


 放たれるだろう火矢に動じることなく、そのまま戟を振るう。


 虚をつかれたのはフィーナだ。


「っ!!」


 火矢に驚いて、シンは一旦身を引くと思っていた。


 身を引いたシンが、体勢を崩したところを切り込もうと踏み出したのに、シンは引かない。


 結果、シンの胴薙ぎの太刀を、自身の突進力を加味して受けてしまう。


 腹部への直撃は、とっさに木刀を縦に持ちかえて防いだものの、後方に飛ばされ、倒れていた。


 すぐに体を起こそうとしたフィーナだったが――。


 その顔先に、シンが木刀を突きつける。


 硬直したフィーナは、顔を強張らせ、シンを見上げた。


 静かな眼差しをフィーナに向けたシンは、ザイルに目を向ける。


「おい審判――」


「そこまで」


 シンに促されて、ザイルが勝負ありと宣言する。


 カイル、リーサス、アレックス、レオロードは、目の前の状況にあぜんとしていた。


 四人はこれまでの経験から「フィーナが勝者」になると思っていた。


 想定を覆し勝利する――。


 それがフィーナだったからだ。


 フィーナが負ける。


 想定外の状況に、カイル達が声を失う中、ため息をついたシンが、突き付けた木刀を下ろすと、フィーナに手を差し出した。


「ほら」


 強張った顔から渋面になったフィーナは、その手をとって立ちあがった。


 負けに反論ないが、おもしろくない。


「これで文句ないよな?」


 フィーナを立ち上がらせた後、面々に視線を向けるシン。


 シンが勝者だと異論はないが、同席者一様に思うところがあった。


「フィーナの魔法が発動しないと、わかっていたのですか?」


 代表してザイルが訊ねる。


 フィーナは「反則」と非難されても仕方ないので、気になっても聞けずにいた。


 ザイルの問いは、同席する面々が抱く疑問だと、シンも気付いた。


 シンはため息交じりに木刀を肩にからうと、ついと顎でフィーナを示す。


「伴魂、居ないのに魔法使えないだろ」






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