77.シンという男 19
「腕試しとしているのだから、それなりのルールは必要だろう」
カイルのとりなしで、簡単なルールが決められた。
「始め」の合図で開始とすること。
魔法は使用せず、武術のみとすること。
相手に一撃を与えれば「勝ち」とする。
「寸止めでもいいか?」
一撃を与えれば。――の点に、シンが戸惑って進言した。
カイル、ザイルがフィーナにうかがいの眼差しを向ける。
フィーナは嬉々として了承した。
「いいですよ。私はそのつもりありませんけど」
シンとしては「女児に手荒な真似をしたくない」との心境で申し出たのだろうが、フィーナとしては自身の行いに、それに准ずるつもりはなかった。
寸止めする。
その方が難しいのだ。
年齢差、体格差からシンはフィーナを気遣ったのだろう。
逆にフィーナとしてはシンとの体格差から、自分が本気を出してもシンの痛手とならないだろうと判断した。
シンにダメージを与えられないが、立ちあいで勝ちとなればいい。
今は木刀代わりの木の枝だが、実戦では剣を手にするのだから。
フィーナの言葉に、言わんとすることを察したシンが、渋面しつつ受け入れた。
「俺は寸止めするって、宣言したからな。
後のことは知らねーぞ?」
フィーナを含め、他の面々に告げるシンに、彼が言う意味を誰も理解できないまま、言葉のままに受け止めて、皆、頷いた。
シンとフィーナ、互いに数メートル距離を置いて対峙し、剣を構えたのを確認して、審判役を請われたザイルが、二人の中間に立って合図を出した。
「始め」
合図と同時に、動いたのはフィーナだった。
シンの聞き手側――右手に踏み込んで、踏み込んだ反動と合わせて体をくるりと回転させ、回し蹴りよろしく、遠心力による力を乗じさせた一撃を繰り出す。
シンは合図と同時に後方に下がりつつ、右手側に木刀を立ててフィーナの撃を凌いだ。
凌いだものの、シンは内心、ほぞをかんだ。
フィーナの初戟を防げたのは、リーサスから「先読みできない言動」を何度も聞いていたからだ。
リーサスの話を聞いていなければ――実際、対面し続けた者の話を聞いていなければ「それほど大したことはない」と思っていた。
焦りは拭えない。
シンも、フィーナと騎士団のやりとりを目にしたことがある。
リーサスとディルクが同席した場だったか。
フィーナは同年代と比べ、抜きんでた実力があるだろうと思っていた。
――しかし、対峙して思う。
リーサスとディルク。
騎士である二人を翻弄したのは、二人の想定範囲外の行動をとるフィーナだ。
話を聞いていたシンは、フィーナの破天荒さを理解していると思っていた。
――わかっているつもりだったが。
外野として見る分と、実際、立ちあう者として見る分とで異なる。
外野としては何とでも言える。
しかし、当事者となると、様々な言動に気配りが必要となる――。
今のシンが、まさにその状況だった。
 




