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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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77.シンという男 19


「腕試しとしているのだから、それなりのルールは必要だろう」


 カイルのとりなしで、簡単なルールが決められた。


「始め」の合図で開始とすること。


 魔法は使用せず、武術のみとすること。


 相手に一撃を与えれば「勝ち」とする。


「寸止めでもいいか?」


 一撃を与えれば。――の点に、シンが戸惑って進言した。


 カイル、ザイルがフィーナにうかがいの眼差しを向ける。


 フィーナは嬉々として了承した。


「いいですよ。私はそのつもりありませんけど」


 シンとしては「女児に手荒な真似をしたくない」との心境で申し出たのだろうが、フィーナとしては自身の行いに、それに准ずるつもりはなかった。


 寸止めする。


 その方が難しいのだ。


 年齢差、体格差からシンはフィーナを気遣ったのだろう。


 逆にフィーナとしてはシンとの体格差から、自分が本気を出してもシンの痛手とならないだろうと判断した。


 シンにダメージを与えられないが、立ちあいで勝ちとなればいい。 


 今は木刀代わりの木の枝だが、実戦では剣を手にするのだから。


 フィーナの言葉に、言わんとすることを察したシンが、渋面しつつ受け入れた。


「俺は寸止めするって、宣言したからな。

 後のことは知らねーぞ?」


 フィーナを含め、他の面々に告げるシンに、彼が言う意味を誰も理解できないまま、言葉のままに受け止めて、皆、頷いた。


 シンとフィーナ、互いに数メートル距離を置いて対峙し、剣を構えたのを確認して、審判役を請われたザイルが、二人の中間に立って合図を出した。


「始め」


 合図と同時に、動いたのはフィーナだった。


 シンの聞き手側――右手に踏み込んで、踏み込んだ反動と合わせて体をくるりと回転させ、回し蹴りよろしく、遠心力による力を乗じさせた一撃を繰り出す。


 シンは合図と同時に後方に下がりつつ、右手側に木刀を立ててフィーナの撃を凌いだ。


 凌いだものの、シンは内心、ほぞをかんだ。


 フィーナの初戟を防げたのは、リーサスから「先読みできない言動」を何度も聞いていたからだ。


 リーサスの話を聞いていなければ――実際、対面し続けた者の話を聞いていなければ「それほど大したことはない」と思っていた。


 焦りは拭えない。


 シンも、フィーナと騎士団のやりとりを目にしたことがある。


 リーサスとディルクが同席した場だったか。


 フィーナは同年代と比べ、抜きんでた実力があるだろうと思っていた。


 ――しかし、対峙して思う。


 リーサスとディルク。


 騎士である二人を翻弄したのは、二人の想定範囲外の行動をとるフィーナだ。


 話を聞いていたシンは、フィーナの破天荒さを理解していると思っていた。


 ――わかっているつもりだったが。


 外野として見る分と、実際、立ちあう者として見る分とで異なる。


 外野としては何とでも言える。


 しかし、当事者となると、様々な言動に気配りが必要となる――。


 今のシンが、まさにその状況だった。





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