73.シンという男 15
「アブルードには魔獣を従える兵がいる。
その兵に誂る魔獣を呼び寄せるようだ」
魔獣を従える兵。
彼らは正規兵ではないものの、活躍如何で周囲の評価を受け、自身の身分を確立させる。
アルフィードには、兵の従魔となる魔獣を引き寄せる力があるようだ。
聞いたフィーナは、すんなりと納得した。
アルフィードの伴魂は、いつの間にか伴魂となった。
アルフィードが小児校、中児校の頃、友人の伴魂が、アルフィードにすり寄る場も目にしている。
主同士が親しいからだろうと、その時は誰もが思っていたが……今の話を聞いて「それだけではない」と思い至る。
伴魂の主は唯一無二。
主同士が仲が良くとも、ありえないのだ、本来ならば。
シンの話にフィーナは納得し、同時に違和感を覚えた。
これまでのやり取りから、シンは確実となって話をする性分だと感じた。
そのシンが「アルフィード救出」の段取りを話しながらも迷いを感じているように思えた。
「――可能、なのですか」
姉を――アルフィードを救出できるのか。
ぽつりとこぼれ出たフィーナの声に、計画を話しあっていた面々はハッとする。
――皆、シンの、これまでと異なる様子に違和感を覚えてはいたのだ。
口火を切るのをためらっていたところを、フィーナが一石を投じた。
フィーナの質問に、一瞬、その場が静寂に包まれた。
顔を強張らせたシンはフィーナを凝視し、フィーナは静かにその視線を返す。
同席する面々は、張りつめる雰囲気の中、口を閉ざして二人を見守っていた。
先に口を開いたのはシンだった。
目を閉じて大きく息をつく。
「かなり強引だが――……仕方ない」
仕方ない。
間を持って告げたシンの言葉に、フィーナは眉を寄せる。
シンの言いようでは「救出に最良の時期ではないが、無理を通す必要がある」と言っているようだ。
フィーナが感じた違和感は的中していた。
「本当はもう少し様子を見て、時期を見定めたかったんだが……」
渋面でシンは続けた。
「早くしないと、嬢ちゃんが壊れる」
◇◇ ◇◇
カタコトと、小さな物音でアルフィードは目を覚ました。
目が覚めると言っても、意識は霞がかり、体は横たわったまま、目だけがぼんやりと開いた状態だ。
自分でも目覚めを認識できないほど、疲れていた。
見えるぼんやりとした景色が、現実なのか夢世界のものなのか判別できないほど、疲労は蓄積していた。
「――起きれるか?」
アルフィードの目覚めに気付いたシンが声をかける。
側に来てからの彼の言葉に、重い意識で頷きながら、体を起こした。
寝ぼけた頭で考える。
ここがどこなのか、昨日は何があったのか、どのような経緯でここにいるのか。
――ここはアブルード国。慣れ親しんだサヴィス王国とは異なる国。
――そして拉致され、不可解な儀式を強要され、その施設から逃げて……今がある。
鎖に繋がれた牢から救い出してくれたシンを見て、アルフィードは状況把握の確信を高めた。
朦朧とした部分が多いながらも、連行されたあの場所から逃げ出したのだと。
シンは同室でアルフィードを見守ってくれたようだった。
昨晩はシンに「睡眠……休息を充分にとるように」と言われるまま、体を横たえてすぐ、泥のように眠っていた自分が恥ずかしい。
羞恥心から、若干、顔をが赤くなりつつも口を開こうとしたアルフィードを先どって、シンが先に口を開いた。
「昨日も言ったが、今日が正念場だ」
告げるシンの表情は真剣そのものだった。
――今になって思い至る。




