72.シンという男 14
フィーナ達にはよくわからないが、緊急通達時にはシンからザイルに、何かしらあるらしい。
それはザイルだけが感じるものだった。
その通達をザイルが受けたのは、宿屋で夕食を取っているときだった。
歓談しながらの食事の際、ザイルがふと動きを止めて――表情を固くした。
シンからの通達だと小声で告げ、早々に食事を切り上げる。
ザイルの先導に従ってしばらく。
街路地の一角で、ザイルに言われるまま身を潜める。
そうしてすぐ、シンが合流した。
フードを目深にかぶるシンは、ザイルとフィーナ達に事情を説明した。
「嬢ちゃんが抜け出した」
隙を見て、宿から逃げたようだとシンは言う。
オーロッド達の異変で気付いたそうだ。
アルフィードの捜索を請われ、フィーナ達は応じた。
マサトはシンからの緊急通達を受ける前から『単独行動中』だった。
フィーナが意識下の会話で呼びかけても、返事がない。
意識下の会話が届かないほど遠くに行っているようだ。
フィーナ達は二手に分かれて近辺を捜索した。
それからしばらく、アルフィードを見つけたと連絡があり、フィーナ達が合流する。
示された先を見ると、人目につかない奥まった街路地の隅に、アルフィードがうずくまっていた。
心もとない姉の姿に、フィーナは胸がしめつけられる。
駆け寄りたい。
思ったものの、我慢した。
アルフィードを保護するなら、先に見つけた面々がそうしているだろうが、遠巻きに様子を見守っている。
今はまだ救出の時でないのだ。
様子をうかがっていたフィーナ達の前で、酒に酔った者達がアルフィードに絡む。
口頭でのからかいで、その場から離れればと思っていたフィーナ達の視線の先で、男のひとりがアルフィードの腕を掴んだ。
連れて行かれそうになって、フィーナは我慢できず、駆け寄ろうとした。
アルフィード拉致の理由などわからなくてもいい。
アルフィードを助けたい――。
思って、飛び出そうとしたフィーナを、シンが肩をつかんで止めた。
待てと告げるシンに、フィーナが我慢できず声を上げる。
「お姉ちゃんが――っ!」
危ないと告げようとする言葉に被らせて、シンが告げた。
「――助けは、来てる」
(助け……?)
訝るフィーナは、シンの視線につられて目を向けた。
シンが見た場所には。
連行されようとするアルフィードと。
彼女達の行く先を遮る、若い男性が立っていた。
◇◇ ◇◇
アルフィードを保護した男性は、剣術武術に長けていた。
遠目に眺めていたザイルも感心する実力だった。
アルフィードはその男性に無事保護されたが、この件でフィーナはシンに不信感を抱いた。
アルフィードが宿から抜けだして人目のつかない街路で身を潜めていたわずかな時間に、声をかけて事情を話してよかったのでは。
そう思ったのだ。
フィーナがシンに対して釈然としない思いを抱く中。
アルフィードは都心を過ぎた先の邸宅に滞在した。
そこが目的地なのだろうと、滞在期間から判断したころだった。
シンがアルフィード救出の話を切り出したのは。
なぜアルフィードは拉致されたのか。
フィーナ達には理由がわかっていないが、シンは把握しているようだった。
最初フィーナが訊ねても、シンは答えなかった。
「はっきりしないから」「明確ではないから」と理由を述べていたが「わかる範囲でいい」と理由を知りたがるフィーナの追及に根負けして「定かではない」と前置きして口を開いた。
「魔獣を呼び寄せる資質があるらしい」
それを見込まれたようだとシンは告げる。
 




