71.シンという男 13
マサトはアブルード国に詳しい。
事前に報告も無く、ふらりと行方をくらますマサトを、手掛かりがあればと、フィーナ達も期待半分で容認していた。
それがまさか、このような時に不在とは。
アブルードに詳しいマサトの意見を聞きたいのに。
結局、マサトが戻ったのはシンと別れてからだった。
シンはシンで、独自の確認事項、下準備が必要だからと「基本、単独行動」を申し出た。
「一人の方が動きやすい。
臨機応変に対応しやすい」
主張するシンを考慮してのことだ。
一人で対処が難しい場合は助力願うという。
連絡方法を確認し合い、普段は別行動をとっていた。
数日おきに顔を合わせるがタイミング悪く、マサト不在時ばかりだった。
『くっそ。今度こそはと思ってたのに』
と、シンと対面していないマサトは悔しがる。
外出しなければ? との話になるのだろうが、それはそれでマサトは渋面で考え込む。
『気になるとこがあれば行くだろ。
「もしかして?」って期待しちまうだろ』
アルフィード救出を願うフィーナ達には、頷くしかない言葉だ。
シンの話をフィーナ達伝いに聞いたマサトは『それも一理ある』とシンの意見を認めている。
先々を考えるなら「なぜ拉致されたのか」知っていたほうが対処できるし、余計な不安を抱えずにすむ。
そうしてアルフィード達の軌跡を辿りながら、様子を伺っていた。
シンからの情報で、アルフィードに追い付き、所在を確認できている。
近づきすぎないように気をつけていた。
それでも、遠方からアルフィードを確認できただけで、言い知れない安堵を感じた。
アルフィードはフィーナ達に気付いていない。
アルフィードにはシンの言葉通り、護衛らしき人物が三人いた。
若年層二人、壮麗層一人。
男性二人、女性一人。
彼らにザイルは眉を潜める。
周囲を注意する仕草等、何気ない所作から、彼らが貴族籍で剣術の心得も確かな印象だと言う。
壮麗の男性。
彼がオーロッドだ。
オリビアがシンにアルフィード救出を頼んだ理由の一つは「オーロッドの顔を知っている」からだ。
オリビアが襲撃された際、シンも居合わせた。
最終的にはディルクが退けたのだが、中継ぎとはいえ、オーロッドの襲撃を凌いだと聞き、リーサスを除いた面々の信頼度が増した。
シンはオーロッドを見知っている。
それはオーロッドを探す際、大いに助けとなった。
アルフィードの所在を掴んだのも、オーロッドとアルフィードの御姿から聞きこみした成果だった。
時折滞在しつつ、けれど着実に首都へ向かうアルフィード達を追っている時だった。
――アルフィードが、停泊した宿から抜け出したのは。
◇◇ ◇◇
シンからの連絡手段は数種類ある。
対面、鳥類を用いた書面通達、魔具による緊急通達。
その知らせは「魔具による緊急通達」だった。
通達先はザイル。
申し合わせの上、受け手はザイルが適任だろうとなった。




