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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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24.スーリング祭【カイルの思慕】


「ディルク様は珍しい伴魂とオリビアには目がない方ですよね」


 ディルクと伴魂、フィーナのやり取りを遠目に見ていたアルフィードは「困ったこと」と、嘆息した。


 アルフィードのつぶやきに、空いている控室の椅子に腰を下ろしたオリビアが引きつった笑みを浮かべる。


「何気に爆弾落としてない?」


「事実でしょう?」


「そうかもしれないけど――ディルクのはちょっと違う気がするんだけどね……」


 オリビアが統率をとる騎士団の面々は、彼女が声をかけた面々がほとんどだ。


 望んで入隊する者もいるにはいるが、そうした者は、オリビアの「王族」の立場に惹かれて申し出る者がほとんどだった。


 オリビアはそうした申し出を分け隔てなく一度は受け入れる。


 あとは自主性に任せた鍛練の様子を見て「不必要」と判じた者を容赦なく切り捨てて行く形式をとっていた。


 そうした形式では自ら志願した者が騎士団に残る者は少ない。


 志願したほとんどの者がオリビアの地位に釣られた者ばかりで、ディルクはオリビアの騎士団の中では少数派の「志願派」だった。


 志願したのは「王族としてのオリビア」を慕ってではなく「オリビア個人を慕って」だと、オリビアが統率をとる騎士団の中では皆が知っていることだった。


 オリビア自身、なぜディルクが自分に心酔しているのか、その理由を把握しきれていない。


 何度か尋ねてたのだが、うやむやにされてきた。


 かといって、異性として慕っているのではないと、オリビアも感じている。


 だから余計、理由のわからないディルクの想いが不思議でならなかった。


 当のオリビアがディルクの想いを受け止め兼ねているのに対して、騎士団の中では「ディルクのオリビア至上」は浸透しきっている。


 オリビアとしては心外なのだが、本人も公言しているので反論もできない状況となっていた。


 いずれ本気でディルクと対話しなければと思うのだが……余計な深みにはまりそうで、それはそれで怖くもあり、結果、足踏み状態が続いていたのだ。


 そうした想いもありつつ、フィーナとディルクの様相を眺めてたオリビアは一応ディルクに「暴走しないように」と釘をさしておいた。


 ディルクは渋々ながらオリビアの言葉を聞きいれて、大人しくしている。


 オリビアがディルクの動向に気を配っている最中、アルフィードの側へ歩み寄ったカイルが、アルフィードに「あの――」と声をかけていた。


 気付いたアルフィードは「なんでしょう」と微笑んでカイルに向かいあう。


 カイルはぎこちない動きを見せながら、意を決して口を開いていた。


「以前、ダンスを御指南頂いたとき、機会があればまた御指南を話したのを覚えておいででしょうか。時間の都合がつくなら、お願いできないでしょうか」


 カイルの言葉に、アルフィードは一瞬きょとんとしたものの「そう言えば」と思い出した。


 確かに、そうした話をしたようだったが、困ったようにオリビアに目を向ける。


 アルフィードの懸念はオリビアにもわかったようで、オリビアは「別にいいんじゃない? 公式な場でも何でもないのだから。それにここ、広さも十分あるし」と答える。


 オリビアの言葉を受けて、アルフィードはカイルに了承の意思を伝えた。


「ありがとうございます!」


 カイルはぱっと顔を輝かせた。


(……あれ?)


 その喜びようが、なぜかフィーナには気になった。


 ドルジェの幼馴染、マーサを好きなジークが、マーサの事で喜んだときに見せる表情を思い起こさせたのだ。


 オリビアを見ると、彼女はカイルとアルフィードを生ぬるい眼差しで見つめ、口の端もわずかに緩んでいる。


 隣の席に座るサリアを見ると、目があったサリアがフィーナの想いを汲んで小さく息をついた。


「……小児校、中児校、カイルと同じだと話したでしょう?」


 頷くフィーナに「最初は殿下だと知らなかったの」とサリアはつぶやく。


「アルフィード様への賛辞を話しているとき、偶然側を通りがかった殿下がそれを耳にしてね。クラスも違ったし、面識なかったんだけどアルフィード様の話で意気投合したの。それから顔を合わせる度にアルフィード様の話をするようになって。殿下の名を知ったのは、ずいぶん後になってからだったわ」


「名前を知らなくて話できるの?」


 素直な疑問をフィーナが口にすると、サリアは再度、息をついた。


「最初『カイル・ダンシェード』と偽名を使われたの。カイルという名自体はそう珍しいものではなかったし、殿下の事も知っていたから、同名なのだと思った程度だったわ」


 言いながら、サリアはアルフィードの手を取って、ダンスを始めるカイルに目を向ける。


 つられて見たフィーナも、二人の様子を眺めていた。


 アルフィードは微笑みながら、滑らかな足運びと優雅な所作を見せている。


 カイルもアルフィードにつられるように、勢いのある動きを要所要所に加えつつ、晴々しい表情を浮かべていた。


(うわ……)


 自分がダンスをしているときの、周囲から見られる動きはわからないが、サリアの模範や周囲の生徒の動きを見て、自分がどのような動きをしているのか、フィーナにも想像はできる。


 カイルとアルフィードのダンスは、緩急息のあった動きで、周囲の目を惹きつけるものを有していた。


 顔を輝かせるカイルに、柔らかく微笑むアルフィード。


 先行しがちなカイルに、アルフィードが上手く併せているのだろうと、傍目から見ても想像できた。


 そうしたカイルの行為から、伝わってくる感情にフィーナは戸惑いつつ、側にいるサリアに、使用人には聞こえないように体を寄せて耳打ちした。


「カイルって――」


「お慕いしてるんでしょうね。アルフィード様は気付かれていないようだけれど」


 サリアの言葉に自分の思い違いではないのだと確信しつつ、再度、カイルとアルフィードへ視線を戻した。


 優雅なダンスを続ける二人を眺めているフィーナに、サリアは言葉を続けた。


「カイルもわかっているのよ。敵わない想いだと。

 ――かたや王族。かたや平民。

 いくらアルフィード様がこれまでに類を見ない才能を有していても、血筋はどうしようもできないから。

 アルフィード様も、カイルをそうした対象とは見ていないのもわかっているし。

 ――けど。想いは……自由よね」


 サリアも気付いているのだから、オリビアもカイルの想いに気付いているのだろう。


 たしなめもせず、カイルの意を汲んだ場を設けたのは、カイルが部をわきまえているからだろうと思えた。


 フィーナには色恋の感情はよくわからない。


 マーサの言動で一喜一憂していたジークの心情も、理解できるときもあれば、できないときもあった。


 フィーナ自身、色恋を感じる相手がいないからだろうが、だからと言って自分が好意を寄せる相手というのも想像できない。


 想像できないが。


 アルフィードと踊るカイルの、普段目にすることのない生き生きとした表情を見ると、うらやましさを覚えるのだった。




カイルの恋心、やっと書けました。

色恋関係、この作品で触れることができたの、初めてかも。(マーサとジークは除く)

カイルに限ったことでなく、色恋関係は後々、話の主軸になるくらい重きをおくものです。

私が恋愛絡まない話は書けない性格なので。(苦笑)

その為に、細かな設定を書きこんでいるって状況でもあります。


そしてベールーニア三兄弟。

ベルーニア兄弟の、それぞれの興味を持っている内容に関して、ちょっとした設定があって、それを書く機会をうかがってました。

ザイルは「薬」、ディルクは「オリビア」、リーサスは「シン→珍しい武術」といった感じです。

ディルクがオリビアに心酔する課程に関しては、おいおいと、機会があればと考えています。


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