67.シンという男 9
詳しく話を聞いてからでないとと、代表してザイルが答えた。
そのザイルも、不機嫌にそっぽ向き続けるカイルを伺いつつの返事だった。
シンは了承して、昼食後、話の場の提供を進言した。
「仕事柄、仲間と共有している簡易宿がある。
ここよりは人目を気にせずにすむはずだ」
相談の結果、進言を受け入れることとなった。
人里離れた山の中腹に設えたその小屋に着くまでも、着いてからも。
カイルは不機嫌のままだった。
◇◇ ◇◇
小屋は簡素ならがも、短期間滞在する点からみると、充分な機能を備えていた。
台所、ダイニング、食卓兼共有部屋。
寝室は男女別で、ベットがない分、寝袋等で雑魚寝前提に造られているようだった。
シンと名乗った男性は「本職は小売商」と告げ、他国からサヴィス王国へ商品を持ちこむ仕事柄、同業者と契約して、各地に点在するこうした小屋の使用権を持っているのだと言う。
その小屋にフィーナ達を案内したシンは、食卓兼共有部屋で、お茶とお茶受け振る舞うと、すぐに本題を切り出した。
「仕事柄、こんな場所を使えるし、他国の知識もある。
アブルードも、サヴィス王国からすれば馴染みない国だろうが、商売できる品はあるんだ。
……アルフィード・エルド嬢の件は聞いている。
王女様から、救出を頼まれた」
「――え……」
初めて聞いたフィーナは、驚きで身を固くした。
本当だろうか。
本当だとしても、オリビアはなぜ、このような人に姉を――アルフィードを頼んだのか。
身分は庶民、一見した限りでは、無駄なぜい肉はない体だが筋肉質ではない。
オリビアの騎士団員であることも驚いていたと言うのに、非力で頼りない団員に、アルフィード救出を指示したオリビアの考えがわからない。
アブルードに詳しいからと考えたものの、肝心な武芸の力量を見誤った……?
訝ったのはフィーナとアレックス、レオロードの三人だ。
カイル、ザイル、リーサスは各々思うところがあるようだった。
フィーナ達の思いを知ってか知らずか、シンは話を続ける。
「できれば俺一人でどうにかしたかったんだが……どうにも難しそうでな」
ため息交じりに告げるシンに、フィーナ達は驚きを隠せない。
「一人で出来ると思っていたのか?」
それまで沈黙を保っていたカイルが口を開く。
訝る表情は、フィーナ達と同様だ。
「仕事柄、一人匿うくらいだったら、それなりにやりようがあるんで。
俺の場合、人数が多い方が動きずらくてやりにくい」
苦笑交じりに告げたシンは、オリビアからアルフィード救出を頼まれた後、フィーナ達の存在もオリビアから聞いていたと話す。
知ってはいたが、シンが考えた計画にはそぐわないので、接触するつもりはなかったという。
しかし。
「嬢ちゃんについてるヤツ等がどうにもなぁ」
アルフィードと行動を共にしている三人が、クセ者なのだとシンはぼやく。
監視、束縛しているのだろうが、それだけでなく護衛風でもある。
拉致された理由もわからないと聞いていたが、アルフィード本人を狙ってのものだとしたら、単なるかどわかしと対策が異なってくる。
「クセ者もクセ者。強者だよ。
そんな輩をつけてるんだから……嬢ちゃんを重要視してるヤツ等も相等だろ。
しかも付いてるの、貴族っぽいし。
交渉できる俗物だったらやりようもあるんだが、正攻法以外受け付けなさそうでな。
正攻法とっても利害でなく、忠誠、信心を優先しそうだし」
つらつらと話すシンに、彼を知らないフィーナは困惑するばかりだった。




