65.シンという男 7
そんな人、これまでいなかった。
オリビアの側仕えとして相応の対応を受けると同時に、敬意と羨望を受けていた。
彼、彼女らはアルフィードを尊重していたが、身を案じることなどなかった。
(だから……)
反発心を抱きながらも気になっていたのだと――他の人と違うと感じていたのだと気付く。
シンはアルフィードを「王女の側仕え」でなく、一個人として接していたのだ。
気付くと同時に、胸が痛んだ。
シンは「対等に接している」と言ったが。
確かに、認めてくれているのだろうが。
やはり庇護対象でしかないのだ。
アルフィードが恋慕の情を抱いても、シンは異性としてアルフィードを見ないだろう。
思いが敵わない相手なのだとわかって、胸の奥が軋む。
「そっちからすれば、キライなヤツに助けられておもしろくないだろうけど、もう少し我慢してくれ。
妹もこっちに来てるから」
アルフィードがシンを嫌っている。
シンが告げた内容に異を唱えようとしたアルフィードだったが、続いた内容に気を殺がれて言葉が口から出て来なかった。
「え……?」
代わりに出たのは戸惑いだ。
今。
シンは「妹」と言った。
妹。
シンの妹のことだろうかと、一瞬考えてしまうほど、あり得ないものだった。
シンが告げた「妹」が、アルフィードが「まさか」と思う相手だと確信したのは、彼が愉快げに口元を緩めて告げたからだ。
「そう。
フィーナ・エルド。
こっちに――アブルードに来ている」
「…………。
…………。
…………はい?」
アルフィードは理解できず、思考が停止した、真っ白になった頭の中を感じつつ、そう聞き返すことしかできなかった。
◇◇ ◇◇
なぜ。どうして。
疑問符しか浮かんでこない。
フィーナはセクルト貴院校の学生だ。
未成年だ。
フィーナが渡国できた状況が理解できない。
慕う姉の危機に、救出を模索しようとも、フィーナにはどうしようもできないはずだ。
シンがアルフィード救出を実行したのは意外だったが、オリビアの指示と助力があってのことだろうと想定できる。
だが。
フィーナが助けにアブルードまで来ているなど、信じられるわけがない。
まず、国境を越えられないはずだ。
国を渡るには煩雑な手続きが必要である。
それをフィーナが手配できたとは思えない。
(ザイル様の助力……?
いえ、それでも学生の渡国は厳しい審査があるし、同行する身元引受人が必要だったはず……)
多忙な両親が同行するとは思えない。
あの両親なら、アルフィードが拉致されたと知れば、フィーナを同行させる手続きなど踏まずに、両親だけで動くはずだ。
学生の渡国許可は審査に時間がかかる。
成人の渡国許可は数日でおりるので、フィーナを同行させるとは思えない。
(……それより……)
両親の性格からすれば、あまり家に居ないものの、身軽で様々な国や地域を渡り歩き、様々な国に精通している身内を頼る可能性の方が高い。
その身内を頼る難点は、放浪の身の故、連絡を取るのが困難であることだ。
ただ。
その身内は、なぜかしら家族の要所要所には立ち合っている。
最近で言えば、フィーナの伴魂が定まった時だ。
いつものように諸国放浪していたはずなのに、フィーナが寝込んでいた時分、ふらりと戻ってきて、フィーナの側に居続けるネコを値踏みする眼差しを向けた。
対するネコも、警戒しながら対峙していた。
書ける時は書けます。
……ってことで、連日更新です。
正直。
ホントにもう、アルフィード拉致からは行き当たりばったり(筋はあるけれど、沿うかは未定)なので、私にもどうなるかわかりません。
大筋はあります。
でも小筋の流れ次第で、大筋も変わります。
今のとこ、私が読めなかった小筋が、どうにか大筋に迎合するので話が変わらずにすんでます。
私の中でもぼんやりとしていた部分が、書き出すことにより鮮明となっていきそうです。
フィーナの関わり、シンとの関係。
明らかにするつもりなかったのですが、話すことになりそうです。
私にとっては想定外の状況ですが。
まあ、仕方ないと言えば仕方ないのですがね。




