64.シンという男 6
肩を上下に揺らし、荒いだ呼吸を整えるアルフィードをシンは呆然と見ながら、ぽつりとこぼした。
「そうしてたけど……?」
対等に接していたと告げるシンに、アルフィードの感情は瞬速で沸点を振り切った。
「ウソよ!
私が注意するとヘラヘラ笑って逃げてたのに!」
「そりゃ怖いから」
「…………っ!」
自覚はあったものの、改めて告げられると身につまるものがある。
シンも強張ったアルフィードの顔に気付いて、慌てて弁明した。
「そうさせたのは俺だってわかってる。
けど……俺は過去も今もこの先も、騎士になるつもりはない。
逃げるに逃げれず、ずるずるここまで来たってだけだ。
情はあっても組織の一部として組み込まれるのは……な~んか違うんだよなぁ」
シンは困った顔で息をつき、頭をかいた。
「曖昧な立場にいるよう、敢えてそうした態度をとってきた。
怒られるとわかりながら、敢えてそう行動してた。
それで悩ませたんだったら……悪かった。
ふざけすぎた。
けど軽く見たつもりも、おざなりにしたつもりもないから。
……甘えすぎたな……」
最後の一言は目を閉じて上を仰ぎ、ため息と共に漏らす。
「甘え……?」
意味がわからず、アルフィードは疑問を口にする。
声を聞いたシンが「そうだよ」と告げてアルフィードに目を向けた。
「度を超えたら注意されるってわかってたから甘えてた。
自分でさじ加減、判断しないといけないのにな」
「…………?」
アルフィードにはシンの言う意味がわからなかった。
注意されるのが甘え?
首を傾げるアルフィードに、シンは苦笑する。
「礼儀作法にも微妙なさじ加減、あるだろ。
『必要な時には注意されるだろう』って――『注意された時に改めればいい』って――その辺の判断を丸投げしてた」
つまり。
アルフィードに注意されたら「行き過ぎ」で、注意されなければ「許容範囲内」としていたと、シンは告げる。
「逃げてた自覚はある。
注意された都度、改めてたつもりだけど……甘かったか?」
「――それ……は……」
問われて、アルフィードは答えに窮した。
アルフィードが注意すると、シンはその点に関しては忠実に改めていた。
忠実であったが、それは「注意した点を改めただけ」だった。
アルフィードはシンに、波及した対応を望んでいたのだが、現実は異なっていた。
貴族社会を知らないシンに、貴族社会流の、含みを持たせた対応を望むほうが間違っていたのだ。
返答に困るアルフィードを見て、シンは息をついてバツが悪そうに頭をかいた。
「悪い。
子供って言ったのは幼いとかそういうんじゃなくて……何て言うかな。
こっちは受け止める度量はあるって……伝えたかったんだけどなぁ」
言葉を模索しながらシンは話す。
「王女様の側仕えとして、いつも気を張ってんのもわかってたし、長子の気質も察しがつく。
抱え込まなくていいって――頼っていいって言いたかったんだ」
苦笑交じりに告げるシンに、シンがそのように考えていたと思わなかったアルフィードは驚きを隠せない。
同時に……シンが他の人と違うと感じていた理由も、本当の意味で理解した。
王女オリビアの側仕えとして、周囲から相応の扱いを受ける中、シンだけは砕けた態度で接してきた。
そうしながら要所要所で、苦言を言われた。
年下だからと軽んじられていると思っていたが……シンの気遣いだったのだ。
更新、遅くなりました。すみません。
仕事がたてこんだ & シンとアルフィードの関係が私の中で練り上がってなかったので、動いてくれなくて大変でした。
書きながら、自分でも腑に落ちなかった点が、すとんと納得できる部分も出てきて驚きです。
アルフィードのシンへの感情……というか、変化と言うか。
私にも「?」の部分があったのですが、今回(まだ更新してない部分も含めて)で、ようやく理解でき始めました。
シンは、他の人達と一線画した場所にいるので(立場上、出番上、心理上)、ホント扱いつらいです……。
アルフィード救出で出番が多くなります。
以降は……どうなるのかな。
(流れは登場人物にお任せです)




