63.シンという男 5
その意見は万人が思いつくものでなく、意外な視点からで、アルフィードがはっとすることも度々あった。
それなのに、なぜ。
気をつければ子供でもできる礼儀をわきまえないのか。
……敢えてそうしないのだろうと……後に気付いた。
オリビアの配下に属するものの忠臣でなく、国を――民を護る仕事ながら、権力者におもねることなく。
自分の信念を誰の目にも明らかにしていた。
アルフィードも時を経て少しずつ勘付いた。
そんなシンの心根を察しても、見過ごせない部分が多々あった。
オリビアへの礼儀作法だけでなく、他貴族籍の人々への対応だ。
相手に警戒心を抱かせず、砕けた対応ながら、押さえるべき要点は押さえて、不快感を与えず好意で味方につける。
シンの同僚から舌を巻かれる行動だが、アルフィードからすれば、いつ奈落に落ちてもおかしくない、谷の上での綱渡りだ。
不必要な危険は避けて欲しい。
騎士団の為にも――シン、本人の為にも。
そうした思いで度々注意していた。
口うるさいと嫌われても仕方ない。
厭われると思うと、胸の奥に鈍い痛みを感じたが、気付かないふりをした。
最優先事項はオリビア、彼女の環境整備だ。
余計な騒動は回避したい。
その信念で行動してきた。
思いを、人に話したことはない。
アルフィードの矜持であり、己を律する拠り所だった。
シンはアルフィードを気遣って「気にしなくてもいい」と言ってくれたのだろうが――。
「――子供ですか?」
「……子供?」
「私は――頼りない子供ですか?」
告げる唇が震えた。
胸元で握り締める手に力が籠った。
助けられた身の上で、言うべきでないとわかっている。
けれど、庇護する対象としか見られないのがつらかった。
一人の成人女性として認めて欲しかった。
サヴィス王国では、中児校を卒業して三年で成人となるのだから。
シンからすれば子供でも、世間一般では大人とされる。
「言いたいことがあるなら、遠慮なくおっしゃってください。
私の発言を、子供の戯言だと流さないでください。
あなたがそのような認識でも、宮での発言は軽くありません。
第一王位継承者、オリビア・ウォルチェスター忠臣として宮内外に認められています。
事情を知らない者は、私の言葉が全てなのです」
(違う……)
堰を切って話し始めるアルフィードを、シンはあぜんと見ている。
シンの様子に気づいたものの、言葉が止まらない。
「私の勘違いを『子供の戯言』として放置した結果。
思わぬところであなたにも影響があるかもしれないのですよ?」
(違う違う違う……っ!)
伝えたい、本当の気持ちは――。
「私をっ! 認めてください!
きちんと向き合って下さい!」
言いながら、アルフィードは混乱していた。
伝えたいのに伝わらないもどかしさから、遠まわしでなく直接的に告げていた。
息まくアルフィードに、シンはあっけにとられた。




