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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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63.シンという男 5


 その意見は万人が思いつくものでなく、意外な視点からで、アルフィードがはっとすることも度々あった。


 それなのに、なぜ。


 気をつければ子供でもできる礼儀をわきまえないのか。


 ……敢えてそうしないのだろうと……後に気付いた。


 オリビアの配下に属するものの忠臣でなく、国を――民を護る仕事ながら、権力者におもねることなく。


 自分の信念を誰の目にも明らかにしていた。


 アルフィードも時を経て少しずつ勘付いた。


 そんなシンの心根を察しても、見過ごせない部分が多々あった。


 オリビアへの礼儀作法だけでなく、他貴族籍の人々への対応だ。


 相手に警戒心を抱かせず、砕けた対応ながら、押さえるべき要点は押さえて、不快感を与えず好意で味方につける。


 シンの同僚から舌を巻かれる行動だが、アルフィードからすれば、いつ奈落に落ちてもおかしくない、谷の上での綱渡りだ。


 不必要な危険は避けて欲しい。


 騎士団の為にも――シン、本人の為にも。


 そうした思いで度々注意していた。


 口うるさいと嫌われても仕方ない。


 厭われると思うと、胸の奥に鈍い痛みを感じたが、気付かないふりをした。


 最優先事項はオリビア、彼女の環境整備だ。


 余計な騒動は回避したい。


 その信念で行動してきた。


 思いを、人に話したことはない。


 アルフィードの矜持であり、己を律するり所だった。


 シンはアルフィードを気遣って「気にしなくてもいい」と言ってくれたのだろうが――。


「――子供ですか?」


「……子供?」


「私は――頼りない子供ですか?」


 告げる唇が震えた。


 胸元で握り締める手に力が籠った。


 助けられた身の上で、言うべきでないとわかっている。


 けれど、庇護する対象としか見られないのがつらかった。


 一人の成人女性として認めて欲しかった。


 サヴィス王国では、中児校を卒業して三年で成人となるのだから。


 シンからすれば子供でも、世間一般では大人とされる。


「言いたいことがあるなら、遠慮なくおっしゃってください。

 私の発言を、子供の戯言だと流さないでください。

 あなたがそのような認識でも、宮での発言は軽くありません。

 第一王位継承者、オリビア・ウォルチェスター忠臣として宮内外に認められています。

 事情を知らない者は、私の言葉が全てなのです」


(違う……)


 堰を切って話し始めるアルフィードを、シンはあぜんと見ている。


 シンの様子に気づいたものの、言葉が止まらない。


「私の勘違いを『子供の戯言』として放置した結果。

 思わぬところであなたにも影響があるかもしれないのですよ?」


(違う違う違う……っ!)


 伝えたい、本当の気持ちは――。


「私をっ! 認めてください!

 きちんと向き合って下さい!」


 言いながら、アルフィードは混乱していた。


 伝えたいのに伝わらないもどかしさから、遠まわしでなく直接的に告げていた。


 息まくアルフィードに、シンはあっけにとられた。





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