60.シンという男 2
「どうして、私があの場所に居るとわかったんですか」
アブルードへの往来があったにしても、あの屋敷は都内でも僻地に近い。
商店街から離れていたのに、なぜすぐに当たりをつけられたのか。
「ん?」
シンはお茶を口にしながら考え込んだ後、カップを置いて答えた。
「企業秘密。」
「え……」
「俺も独自のツテを持ってる。
……が。
簡単に人には明かせなくてな」
「………………」
口をつぐんでいるものの、納得できない表情のアルフィードに、シンは仕方なさそうに肩をすくめた。
「蛇の道は蛇。
正攻法だけが手段じゃない。
知らずにいた方がいいことも、この世にはある。
そういうのは関わらない、知らずにすんだ方がいい」
違法なものに関る可能性を、シンは示唆する。
それが今回関わっているのか否か。
わからないが、明言しないところを見ると前者なのだろう。
(もしくは、手の内を見せたくないのか――)
隠しておきたい部分もあるのだろうと、訊ねて答えるまでの間、思案を巡らすシンの表情から、アルフィードはそう感じた。
それから現在地がアブルード国のどのあたりになるのか、主要街道までどの程度離れているのか、サヴィス王国はどの方角になるのか。
話しながら、アルフィードはカップを見下ろして、持つ手に力を込めた。
「ありがとう……ございます……」
「…………は?」
唐突に告げられた言葉に、シンは虚をつかれ、目をしばたたせた。
アルフィードは手にしたカップに視線を落したまま、勢いにまかせて言葉を続けた。
そうしなければ、礼を言えなくなると思った。
感謝しているのに。
これまで彼にきつい態度をとってきた後ろめたさが、勢いづいた言葉を止めると、そのまま礼も言えなくなりそうだった。
ポカンとするシンに気付いたが、アルフィードは勢いにまかせて、アブルードでシンと会ってから、ずっと気になっていたことを訊ねた。
「なぜ……助けてくれたのですか?」
「……なぜ?」
「あなたにキツク接していた私を……オリビアの……たとえ王女の命だとしても、なぜ引き受けたのですか。
あなたなら断ることもできたでしょう?
望んで騎士団員となってる他の方々と、立場が異なるのですから」
シンはリーサスの強引な誘いに負けて騎士となった。
オリビアもリーサスに根負けして、身元不確かなシンを騎士団員としている。
最初はシンをいぶかしんでいたオリビアも、庶民の目線と騎士団員としても通用する素行と視点、振る舞い、時折ハッとする目の置き所から、それとなく重用するようになっていた。
ディルクのように護衛騎士とするのではなく、騎士団の中で役職を与えるわけでもなく。
一般騎士兵としながら、オリビアはシンに度々意見を仰いでいた。
シンも気兼ねなく、「王女オリビア」でなく、一騎士団の長に意見を述べていた。
宣言。この話からアルフィードとシンとのやりとり、書き直し可能性大です……。
言っちゃいけないけど、私にも扱いきれないんです、この二人……。
この話を書きながら、自分でもメチャクチャ驚いてます。
「シンとアルフィード、煮詰めてなかった!!」
……と。(苦笑)
ずっとこの二人は私の中であったんですが、なんかこう……すんなり進まない……。
イメージビュー(想像画)が先行して、内面詰めてなかったな……。
そう思い至ってます。
そして思わぬ話の進み具合です。(「ガハっ」と吐血心境)
とりあえず、なりゆき任せですが……。
着地……できるのかな……(不安不安不安不安)




