59.シンという男 1
◇◇ ◇◇
「……――アル……、――……アル」
ぼんやりとする意識の中、体をゆすられ、覚醒を促される。
聞き覚えのある声だった。
覚えはあるが、アブルードで聞くはずのない声でもあった。
勘違いだと思い、睡魔に体を預けようとするが、呼ぶ声が眠りを阻害する。
アルフィードは眠っていたかった。
痛みを感じたくなかった。
激痛の咆哮を聞きたくなかった。
なのに揺り起こす声が眠りを許してくれない。
(誰――……)
朦朧とする意識の中、重い瞼を持ちあげ、アルフィードを抱きかかえて揺り起す相手を見上げた。
褐色の髪に空色の瞳。
彼はうっすらと目を開けたアルフィードを見て、安堵の息をついた。
「……シン……?」
見覚えのある人物の名を、アルフィードは口にする。
なぜ、どうして。
そうした疑問さえ思いつかないほど、アルフィードの意識は薬に阻害されていた。
茫洋とするアルフィードの状況を把握しているのだろう。
シンはアルフィードを抱きかかえる腕に力を込めると、耳元で囁いた。
「フィーナも――妹も探しに来てる。
俺も王女様の命で探しに来た。
――帰るぞ、サヴィスに」
シンはそう告げると、アルフィードに気付け薬を飲ませた。
アルフィードは成されるがまま、口に流れ込む苦い飲料を嚥下し、再び眠りに落ちたのだった。
◇◇ ◇◇
シンからもらった睡眠薬の中和剤は、飲んで十数分で効果が出た。
頭痛が残るものの、意識は鮮明だ。
目覚めて、改めて思う。
なぜ、シンが居るのかと。
偽物ではないのか、実はアブルードと繋がりがあったのではないか――。
「王女様に頼まれたんだって。
仕事柄、いろんな国行ってるから」
シンはアルフィードの疑念にため息交じりに呟く。
そしてアルフィードの側に行くと、足の鎖の鍵を針金一本で解除した。
シンは驚くアルフィードの手をひいて、牢から出た。
牢の扉も解錠され、門番らしき男性二人も牢の前でノびている。
シンの行為だろう。
想定外すぎる状況に、アルフィードは言われるまま、なされるがまま、シンに従った。
屋敷の使用人と鉢合わせそうだと物陰に隠れて息をひそめやりすごし、人気がない時を見計らって移動する。
シンの手引きの元、裏口から屋敷を後に、シンが準備した馬に二人で乗って、屋敷を後にした。
そうして着いた先は、人里離れた小さな山小屋だった。
小屋の中は、ごく最近使用していた生活感が残っている。
「ここは――」
「同業者の仲間内で使ってる。毎回宿だと金かかるし、野宿ばかりもつらいんでな」
このような小屋を、様々な国に置いて共有し合い、管理しているという。
部外者が使用しないよう、目隠しの魔法を施し、専用の鍵魔法を用いていた。
山小屋は簡単なテーブルとイス、台所で一室、もう一室は寝室だがベッドも何もなく、がらんとしている。
寝る時は雑魚寝するようだった。
詰めれば大人十人が横になれる広さがある。
シンは慣れた様子で台所を使用し、お茶を用意した。
出されたお茶に礼を言って口をつけながら――アルフィードは今でも不思議でしかたなかった。
ポッと出のシンです。
久しぶりですね。
彼はこの状況があったから、初期から書いていました。
今回の登場、唐突過ぎるかなぁ。
とも思いますが、書いていない部分で行動してました。
そこの部分書くと、説明長くなりすぎるので、はしょりました。
書いていない部分については、ざっくりと後で説明あります。
……多分。
ってか、シンの仕事、書く機会逃してましたね。
何回か書こうとしてたんですけど。
商品の輸出入業と言うのでしょうか。
他国の商品を仕入れて卸して、自国の商品を他国に卸して――。
ってな仕事してます。
そんな仕事してるんで、我流の武術は護身術で、いろいろあって上達したって経緯です。
騎士の仕事ばかりできなかったのは、そうした事情もありました。
そうした部分もざっくりと話す機会あるでしょう。多分。(苦笑)




