49.ルーフェンスの巫女 4
足を縛る鎖を破壊しようと暴れていた。
「――抵抗続ければ、巫女がどうなるか……」
声は台座の先、部屋奥の暗がりから聞こえた。
高齢の、低く、かすれを含んだ男性の声だった。
アルフィードから男性の姿は見えないが、なぜか目隠しされて連れられた屋敷で見た男性――顔が暗がりでわからなかったあの人を思わせた。
高齢男性の声に、魔獣はハッとし、歯をむき出しにして唸りつつ、鎖を振り切ろうとする動作を弱めた。
大人しくなった魔獣に、アルフィードは不信感を抱く。
なぜ、抵抗を弱めるのか。
老齢の男性の言葉は、巫女を――アルフィードを人質としたような発言ではないか。
朦朧とする意識の中、アルフィードはそれ以上、深く考えられなかった。
不可解さを感じながら、同時に魔法の詠唱に苦しむ魔獣に胸が痛んだ。
何をしているのか、何を成そうとしているのか。
アルフィードにはわからなかったが、苦痛に悲鳴を上げる魔獣を見て「やめて」と声をあげたかった。
朦朧とする意識では、思ったように体が動かない。
次第に高みに昇る詠唱と呼応して、魔獣の苦痛も大きくなる。
最後、呪文がひときわ高らかに唱えられ――魔獣の悲鳴も最大となった直後。
しん、と静寂な室内で、魔獣が静かに、ゆっくりと倒れ込んだ。
倒れた魔獣の容体を、白装束姿の一人が確認して、老齢の男性に顔を向け、静かに首を横に振る。
それを見た老齢の男性は、ため息をつくと席を立って部屋を後にした。
白装束の者たちは後片付けを始める。
朦朧とする意識の中、途切れそうになる意識を懸命に保っていたアルフィードは、何がどうなったのかわからないまま、状況を見定め、把握しようとしていた。
それぞれ片づけする白装束の一人が、アルフィードの元に歩み寄る。
意識のあるアルフィードに驚き、憐れむように呟いた。
「意識あったか。皆まで見ずとも――」
目深にフードを被っていたので表情は見えない。
何がどうなっているのか。
アルフィードは聞きたかったが、体は思ったように動かず、口も動かせない。
目を開けているのが精いっぱいだったアルフィードに、白装束の者がすっとアルフィードの目元に右手をかざして何かを小さく唱えた。
――そこでアルフィードの記憶は途切れている。
◇◇ ◇◇
「申し訳ございません」
用意された邸宅の寝室で目覚めたアルフィードは、起きぬけにプリエラに謝罪を受けた。
爽快な目覚めとはいかず、若干、思考が霞がかっている。
充分に頭が回らないが、それでも先日よりは意識がしっかりしている。




