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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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49.ルーフェンスの巫女 4


 足を縛る鎖を破壊しようと暴れていた。


「――抵抗続ければ、巫女がどうなるか……」


 声は台座の先、部屋奥の暗がりから聞こえた。


 高齢の、低く、かすれを含んだ男性の声だった。


 アルフィードから男性の姿は見えないが、なぜか目隠しされて連れられた屋敷で見た男性――顔が暗がりでわからなかったあの人を思わせた。


 高齢男性の声に、魔獣はハッとし、歯をむき出しにして唸りつつ、鎖を振り切ろうとする動作を弱めた。


 大人しくなった魔獣に、アルフィードは不信感を抱く。


 なぜ、抵抗を弱めるのか。


 老齢の男性の言葉は、巫女を――アルフィードを人質としたような発言ではないか。


 朦朧とする意識の中、アルフィードはそれ以上、深く考えられなかった。


 不可解さを感じながら、同時に魔法の詠唱に苦しむ魔獣に胸が痛んだ。


 何をしているのか、何を成そうとしているのか。


 アルフィードにはわからなかったが、苦痛に悲鳴を上げる魔獣を見て「やめて」と声をあげたかった。


 朦朧とする意識では、思ったように体が動かない。


 次第に高みに昇る詠唱と呼応して、魔獣の苦痛も大きくなる。


 最後、呪文がひときわ高らかに唱えられ――魔獣の悲鳴も最大となった直後。


 しん、と静寂な室内で、魔獣が静かに、ゆっくりと倒れ込んだ。


 倒れた魔獣の容体を、白装束姿の一人が確認して、老齢の男性に顔を向け、静かに首を横に振る。


 それを見た老齢の男性は、ため息をつくと席を立って部屋を後にした。


 白装束の者たちは後片付けを始める。


 朦朧とする意識の中、途切れそうになる意識を懸命に保っていたアルフィードは、何がどうなったのかわからないまま、状況を見定め、把握しようとしていた。


 それぞれ片づけする白装束の一人が、アルフィードの元に歩み寄る。


 意識のあるアルフィードに驚き、あわれむように呟いた。


「意識あったか。皆まで見ずとも――」


 目深にフードを被っていたので表情は見えない。


 何がどうなっているのか。


 アルフィードは聞きたかったが、体は思ったように動かず、口も動かせない。


 目を開けているのが精いっぱいだったアルフィードに、白装束の者がすっとアルフィードの目元に右手をかざして何かを小さく唱えた。


 ――そこでアルフィードの記憶は途切れている。




     ◇◇          ◇◇




「申し訳ございません」


 用意された邸宅の寝室で目覚めたアルフィードは、起きぬけにプリエラに謝罪を受けた。


 爽快な目覚めとはいかず、若干、思考が霞がかっている。


 充分に頭が回らないが、それでも先日よりは意識がしっかりしている。






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