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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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48.ルーフェンスの巫女 3


「どうお詫びをすればいいのか……」


 困惑する母親と、いまだ肩をいからせるリグを見て、アルフィードはふと思いついたことを口にした。


「ここに住んでいた前任者について、教えていただけませんか」


 アルフィードはそう告げると、プリエラに剣をおさめるよう促す。


 プリエラもオーロッドから――正確にはセレイスの指示だが――ルーフェンスの巫女に関する権限者を探るよう言われている。


 指示の部類だからと、プリエラを渋々引かせた。


 リグの母は、戸惑いながら端的に話してくれた。


 前任者、タオは十五の少女だった。


 彼女がルーフェンスの巫女となったのが十の時。


 以来、屋敷に住み、巫女の仕事を続けていた。


 ――フェンド族の誰も、巫女の仕事がどういったものか、はっきりと知らない。


 兵にあてがう魔獣を呼び寄せて、国の戦力増強に努めている。


 その為、平民ながら貴族同等の地位と生活を約束されていると聞いていた。


 タオは幼いころに両親を亡くし、叔母と暮らしていた。


 十歳でルーフェンスの巫女となって二年後、叔母も他界した。


 ルーフェンスの巫女は基本、住まいの敷地内から出れないが、月に数日、村への外出は許されている。


 小さな村なので、皆、家族同様仲がいい。


 リグがタオを慕うのもそうした関係からだった。


 話の途中、敵対心丸出しのリグが時折、タオの動物好きを声を上げて主張する。


 母はリグをなだめつつ、アルフィードへの話を続けた。


 リグの母親の話はタオ自身の話だけで、巫女の具体的な話はなかった。


 前任の少女を知れただけ、アルフィードにとっては収穫だ。


 話を聞く限り、驕りも高慢さもない、普通の少女のようだ。


 彼女がなぜ失踪したのか――。


 その理由を、アルフィードは身をもって知ることとなる。




        ◇◇       ◇◇




 翌日、違和感を覚えながら目が覚めた。


 いつもと違う――。


 そう感じつつ、頭が重く、思考が不鮮明だとも認識していた。


 寝ぼけたような、朦朧とするような――。


 回らない頭をどうにか持ちあげて周囲を見ると、薄暗い、見知らぬ場所だった。


 窓のない、四方を石壁に囲まれた広い石室だ。


(どうして……)


 昨夜は屋敷の寝室で眠ったはずだ。


 プリエラも護衛として同室のベッドで就寝したはずなのに。


 今、アルフィードは革張りの重厚な椅子に座っていた。


 ……両腕を肘置きに縛られ、拘束されていた。


 思考は霞がかり、どうにも頭がまわらない。


 深く考えられない。


 同時に、眠くてしかたなかった。


 睡魔に抵抗して周囲を見渡し、セクルトの一教室ほどある広さの部屋だと知る。


 その部屋奥に、成人の腰ほどの高さの台座がある。


 台座には魔力を持つ獣――魔獣が、片足を鎖で繋がれている。


 顔が見えないほどフードを目深にかぶった、白装束姿の者三人が、台座を囲んでいる。


 キツネの魔獣は、歯をむき出して周囲を威嚇、唸り声をあげている。


 台座には光が注がれている。


 薄暗い部屋の中、一か所だけ鮮明な光りが注がれるその場所は、さながらこれから幕が上がる劇場の舞台のようだと、ぼんやりとする意識の中、アルフィードは感じた。


 これから何が演じられようというのか――。


 意識は朦朧としながらも、アルフィードは言い知れない不安を感じていた。


 魔獣を囲む、三人の白装束の男。


 彼らはおもむろに詠唱を口にした。


 歌のような、神事の祝詞のような。


 同時に唱えているが、互いの声の高さ、調子が時折異なる。


 それが絶妙に絡み合って、互いが互いを高めている。


 集団魔法――。


 式典で騎士団が演出として披露した魔法に似ていた。


(そんな……)


 室内の空気の変化を感じながら、アルフィードはおののいた。


 集団魔法は強力だ。


 その魔法を小室で使うのか。


 キツネの魔獣は、白装束の男達を威嚇し続けている。




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