46.ルーフェンスの巫女 1
◇◇ ◇◇
荘厳な雰囲気の室内は広く、薄暗かった。
(謁見の間……)
案内された部屋をアルフィードはそう感じた。
広い部屋の中央に絨毯が直線に敷かれ、部屋の最奥は数段の階段の上に壇上がある。
絨毯の先の壇上には、重厚な椅子があり、誰か座っていた。
室内、四方の壁、十数か所に灯りがともっている。
他、必要最低限の光源しかない。
窓もなく、外部から彩光できない為だろう。
案内された部屋に入室して進み、止まるよう指示され、従う。
壇上まで数メートル、椅子に座る人物まで十メートルほどだが、採光の具合で椅子に座る人の顔が見えない。
指示に従い、その場に留まるアルフィードに、魔獣が放たれた。
驚くアルフィードに、魔獣たちはアルフィードを取り巻いて庇いつつ、椅子に座る人物を威嚇する。
魔獣を集めていた経緯を知らないアルフィードは、突然のことに驚きつつ、即座に状況を理解した。
脳裏をかすめたのは、慕ってくれた動物たちが、アルフィードを庇おうとオーロッド達に牙をむいた光景だ。
「待――っ!!」
反射的に叫びそうになった声は、威嚇の声を上げながら、椅子に座る人物を攻撃しようとする獣たちが――数歩、足を進めたところで、ふっと意識を失い、パタパタと続けて倒れたのを見て途切れた。
「――確かに」
目の前の光景に当惑するアルフィードを置いて、椅子に座る人物はそう呟く。
アルフィードがはっとした時には、椅子は空席で、倒れた魔獣を捕獲する兵が忙しなく動くだけだった。
その後、アルフィードは「当面の住まい」とされる場所に案内された。
先ほどの場所にも、首都に入るなり目隠しをされ行程を隠されたが、今回も出発前にまた目隠しをされた。
到着後、目隠しを取り、馬車からおりると、目の前にはサヴィス王国の下流貴族並みの家がそびえている。
階層は二階だが、横に広く、部屋数は十以上あるだろう――。
そんな想像が容易にできる造りだ。
空き家だったのか、家には人の気配がない。
少し前まで人がいただろう気配は感じるが、住民の存在は感じなかった。
この家では自由に過ごしていい。
そう言われていたので、アルフィードは邸宅の状況を見て回った。
そうして自室に戻ってしばらくすると「お付きの侍女」が食事と入浴の案内にきた。
どちらを先にするか。
聞かれて、アルフィードは反射的にプリエラを見た。
プリエラは「護衛」と言う名の「監視役」としてアルフィードと部屋を共にしている。
アルフィードの視線を受けて、プリエラは「お好きなように」と身ぶり視線で促した。
使用人たちはどちらでも構わないのだ。
その日、アルフィードは入浴後、食事をとった。
その後、何をするでもなく、その住まいで過ごし、時間だけが過ぎて行く。
翌日、アルフィードは邸宅の外――敷地の外を行き交う人を目にした。
顔立ち、髪の色、肌の色。
彼、彼女らはアルフィードに似た外見だった。
住まいは別にあるようだ。
「彼らは小さな村に住んでいるようです」
そうプリエラが使用人から聞きだした情報を教えてくれた。
彼らは「フェンド族」と呼ばれる少数民族で、国の庇護を受けているという。
衣食住、何ら不自由ない生活を送れるが、常に監視されているようだとプリエラは告げた。
「フェンド族からルーフェンスの巫女が選ばれるそうです」
ルーフェンスの巫女。
使用人も近くに住む者もフェンド族も、ルーフェンスの巫女の存在を知っている。
どんな役目があるのか、どのような素質をみるのか。
細部は知らないが「巫女の生活は裕福」と認識されていた。
「けれど、前の巫女は失踪されましたよね」
「本人の意思で『失踪した』のか『第三者の画策』か――。
後者の可能性もありえます」
「そう、ですね……」
プリエラの話をもっともだとアルフィードも感じる。
……だが。
ルーフェンスの巫女への周囲の対応は、羨望ではなく恐れ、忌避を強く感じた。
アルフィードの考えが間違いでないと、すぐ気付いた。
久々の更新です。すみません。
今回のカテゴリで、「猫と月の夜想曲」、この話の核心に触れていきます。
そのこともあって、私の中でキャラ任せに動かす作業に時間かかってました。
動いてくれるけど「なんか違う」「この部分は必要ない」「いや、やっぱり必要だから動いてたんだ」……などなど。
道筋が見えてきたので、ようやく更新できます。
ルーフェンスの巫女とは何か。
マサト、フィーナにも関連しています。
書いた当初から考えていた部分がようやく書けそうです。
長かった……。(苦笑)




