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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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45.プリエラ 16


 感情露わに声を荒げるプリエラに、はたかれた頬を拭う仕草をしながら、セレイスは苦笑した。


「俺も――ようわからん」


 言いながら、プリエラに触れる手を、親指を。


 唇に沿わせてなぞった。


「人の価値観、一般的評価なんぞ、どうだってええわ。

 人としての在り方に惚れたんや。

 生きざまに惚れたんや。

 あんさんが自分をどう思うとうか。

 そんなん知らんし、関係あらへん。

 俺はプリエラ・ユースヴォートに惚れとるんや」


 告げる言葉に。


 告げる眼差しに。


 セレイスの気持ちを――彼の本心を、プリエラも感じた。


 感じたものの、プリエラもどうしたらいいのかわらなくて、頬に触れるセレイスの手を振り払い、逃げるようにその場から離れた。


「どうか、しました?」


 オーロッドとアルフィードの元に戻ると、アルフィードが心配そうにプリエラに声をかけた。


 戻ったプリエラは、肩で息をするほど呼吸を荒げ、頬を紅潮させ――冷静さを欠いていた。


「何でも、ありません」


 アルフィードとオーロッドに心配させまいと、どうにかそう答えたものの、後で戻ってきたセレイスには、敵愾心丸出しの警戒を見せる。


 セレイスはプリエラの険のある視線に気づきながらも、素知らぬ振りをしていた。


 セレイスとプリエラ。


 気まずい雰囲気ながら、仕事は割り切って必要なやり取りはこなしていた。


 アルフィードは、二人のやり取りに違和感を持ちつつも、プリエラ、セレイス、オーロッドに話を合わせていた。


 そうして夕食と湯浴みを終えて宿部屋で休んでいたアルフィードを「オーロッドが呼んでいる」とセレイスが呼びに来た。


 言われるままついて行くと、部屋ではオーロッドが剣の手入れをしている。


 声をかけても反応がない。


 不思議に思っていると、セレイスが「耳栓しとる」と説明した。


 意味がわからず首を傾げるアルフィードに、セレイスは気まずそうに「俺が頼んだんや」と告げて、本題を口にした。


「プリエラ……どないしとる?」


「どう……とは……」


「俺んこと、何か言うとうたか?」


「――いえ……」


 正直に答えると、頭をたれていたセレイスは、盛大なため息をついて頭を抱えた。


 午後からのプリエラとセレイスの関係、今のセレイスの反応から、何かしらあったのだと察していた。


 オーロッドに耳栓をして話が聞こえないようにして、アルフィードと話をしようとするところを見ると、セレイスも切羽詰まっているようだ。


「やらかした……」


 頭を抱えてそうこぼすセレイスから、アルフィードは状況を聞きだした。


 午後からのプリエラとセレイスの状況から、察しはついていたが。


「言ったのですか」


 セレイスの気持ちを明確にしているとは思わなかった。


「勢いあまってもうた……」


 言って、頭を抱えたまま、再度、盛大なため息を落とす。


 プリエラの動向が気になるセレイスは、アルフィードに探りをいれたいのだ。


 そう察しても、アルフィードも何とも言いがたい。


 プリエラの明らかな行動の変化は見えていても、彼女から何も聞いていないのだ。


「気をつけておきます」


 そう答えて、本題を尋ねた。


 セレイスが探ってほしいこと、それにプリエラも同行するのか。


 話の流れで、曖昧になった部分を、オーロッドを押して再度、念押しすることにした。


 セレイスの考えでなく、オーロッドの、所属長の命として。


 セレイスもプリエラの同行を許したのだった。





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