45.プリエラ 16
感情露わに声を荒げるプリエラに、はたかれた頬を拭う仕草をしながら、セレイスは苦笑した。
「俺も――ようわからん」
言いながら、プリエラに触れる手を、親指を。
唇に沿わせてなぞった。
「人の価値観、一般的評価なんぞ、どうだってええわ。
人としての在り方に惚れたんや。
生きざまに惚れたんや。
あんさんが自分をどう思うとうか。
そんなん知らんし、関係あらへん。
俺はプリエラ・ユースヴォートに惚れとるんや」
告げる言葉に。
告げる眼差しに。
セレイスの気持ちを――彼の本心を、プリエラも感じた。
感じたものの、プリエラもどうしたらいいのかわらなくて、頬に触れるセレイスの手を振り払い、逃げるようにその場から離れた。
「どうか、しました?」
オーロッドとアルフィードの元に戻ると、アルフィードが心配そうにプリエラに声をかけた。
戻ったプリエラは、肩で息をするほど呼吸を荒げ、頬を紅潮させ――冷静さを欠いていた。
「何でも、ありません」
アルフィードとオーロッドに心配させまいと、どうにかそう答えたものの、後で戻ってきたセレイスには、敵愾心丸出しの警戒を見せる。
セレイスはプリエラの険のある視線に気づきながらも、素知らぬ振りをしていた。
セレイスとプリエラ。
気まずい雰囲気ながら、仕事は割り切って必要なやり取りはこなしていた。
アルフィードは、二人のやり取りに違和感を持ちつつも、プリエラ、セレイス、オーロッドに話を合わせていた。
そうして夕食と湯浴みを終えて宿部屋で休んでいたアルフィードを「オーロッドが呼んでいる」とセレイスが呼びに来た。
言われるままついて行くと、部屋ではオーロッドが剣の手入れをしている。
声をかけても反応がない。
不思議に思っていると、セレイスが「耳栓しとる」と説明した。
意味がわからず首を傾げるアルフィードに、セレイスは気まずそうに「俺が頼んだんや」と告げて、本題を口にした。
「プリエラ……どないしとる?」
「どう……とは……」
「俺んこと、何か言うとうたか?」
「――いえ……」
正直に答えると、頭をたれていたセレイスは、盛大なため息をついて頭を抱えた。
午後からのプリエラとセレイスの関係、今のセレイスの反応から、何かしらあったのだと察していた。
オーロッドに耳栓をして話が聞こえないようにして、アルフィードと話をしようとするところを見ると、セレイスも切羽詰まっているようだ。
「やらかした……」
頭を抱えてそうこぼすセレイスから、アルフィードは状況を聞きだした。
午後からのプリエラとセレイスの状況から、察しはついていたが。
「言ったのですか」
セレイスの気持ちを明確にしているとは思わなかった。
「勢いあまってもうた……」
言って、頭を抱えたまま、再度、盛大なため息を落とす。
プリエラの動向が気になるセレイスは、アルフィードに探りをいれたいのだ。
そう察しても、アルフィードも何とも言いがたい。
プリエラの明らかな行動の変化は見えていても、彼女から何も聞いていないのだ。
「気をつけておきます」
そう答えて、本題を尋ねた。
セレイスが探ってほしいこと、それにプリエラも同行するのか。
話の流れで、曖昧になった部分を、オーロッドを押して再度、念押しすることにした。
セレイスの考えでなく、オーロッドの、所属長の命として。
セレイスもプリエラの同行を許したのだった。




