表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
493/754

44.プリエラ 15


 鼻先が触れるか触れないか。


 至近距離で――話す吐息が触れる距離で、プリエラに告げる。


「女性らしゅうない言うとうけど、美麗では姉さんより評価高いで?」


「そんな話は……」


「気にしとらんだけやろ。

 それらし話聞いても『自分やない』思うてとうたんやろ?」


 その通りなので、プリエラは何も言えない。


 しかしだ。


 プリエラが自分を低く見ていたのは、他にも理由があった。


「姉のように、声をかけられることもありませんでしたから」


 評価されていたにしても、気付かなくて当然だ。


 反論したプリエラだったが――それはセレイスの地雷を踏んだも同然だった。


 圧を持って話す言葉、声音、口調。


 それらを紡ぐ表情は、柔和な笑みをたたえていたが――プリエラの一言で、笑みに凄みが増した。


 笑っているが怒りを感じる――。


 セレイスとのこれまでの付き合いから、感情の機微を感じとったプリエラは、反射的に身をすくめた。


「俺が許す思うん?」


「――え?」


「気ぃありそうな者には、手ぇ打たせてもろたわ」


「――――。

 ――――え?」


「先に見つけたんは俺や。

 前は気付きもせんよって、人が磨いたもん、手ぇ出そうとするもんには、それなりの対応させてもろたわ」


 プリエラ自身は気付いていないが。


 仕事仲間としてじゃれあうように、舞踏会でのダメ出しや指導、衣服や化粧、立ち振る舞いに関して、セレイスはプリエラに指導していた。


 プリエラも「必要最低限の礼儀作法は身に着けないと」との思いから、セレイスの助言を受けれていた。


 ――セレイスの要求は「必要最低限の礼儀作法」より高度だったのだが、プリエラは気付いていない。


 そうして洗練されたプリエラに、周囲の目が向けられるのに時間はかからなかった。


 プリエラの家は上位貴族だ。


 家で指導を受けてのものだろうと思われていた。


 ――実際は、セレイスの指導を受けてのものだった。


 そうして注目されたプリエラに、これまで見向きもしなかった者を排除するのは。


 セレイスは当然の権利だと思っている。


 しかし、そうした意識がないプリエラは、困惑を深めるばかりだ。


「――――。

 ――――。

 ――――え?」


 頬に触れるセレイスの手を忘れるほど、プリエラは混乱していた。


 そうしたプリエラの様子を見ながら、話の流れで、セレイスはふと、思い出した事があった。


「――ああ。

 せやけど、あんさんがしとうとうたディーン男爵の次男坊には、何もしとらんよ。

 話がないんなら、あちらさんもそのつもりはなかったんやろな」


 ディーン男爵の次男坊は、プリエラのいとこだ。


 既婚者なので、話があるわけがない。


 しかし。


 プリエラは物ごころついたころに、五歳年上の彼に淡い恋心を抱いていた。


 セレイスが仕事仲間となるまで、異性の中で一番忌憚なく接していた。


「――――っ!!」


 不意に告げられた名に、プリエラはカッとなって、セレイスの頬をはたいていた。


 パンっ!


 ――と、乾いた音が周囲に響く。


 セレイスは頬をはたかれ、顔をそむけながらも、プリエラの頬に添えた手を離さなかった。


 はたかれた瞬間、添えた手に力はこもった。


「あなたは――っ!

 何がしたいのですか!」


 頬に触れる手を、顔を振って振りほどこうとしても離れない。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ