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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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21.スーリング祭【オリビアの素性】


 事前に打ち合わせもなく、予告もなく、状況を把握すべき使用人にも通達なく「我が道を行く」然として入室してきたオリビアに、フィーナとカイルとサリア、その他使用人の面々はぎょっとした表情を浮かべた。


 オリビアはスーリング祭を終えてからそう時間が経過していないので、見慣れた騎士然とした服装でなく淡い菫色のドレスのままだ。


「オリビア様!」


 オリビアを見たフィーナは、自分の周りにいた衣装調整の使用人に構うことなく、彼女の側へと歩み寄った。突然動きだしたフィーナは、使用人たちを振りきる形で、外れかけの髪飾りや、ドレスを彩る装飾品も中途半端についている状態だった。


 使用人たちはフィーナのようにオリビアの近くに行くこともできず、おろおろしている。


 そうした周囲の状況に構わず、フィーナはオリビアに叫んでいた。


「なぜ王女様だと教えてくれなかったのですか!?」


「「知らなかったの」か!?」


 声はサリアとカイルから上がった。


 信じられない表情を浮かべる二人に、今度はフィーナが戸惑う。


「だってっ! お姉ちゃんの友達が王女様だなんて、普通考えないでしょ!?」


「それはそうだけど――御高名を伺えばわかったことでしょ?」と、戸惑いを滲ませるサリア。


「同名の貴族様と思ってたんだもの」


「同名って――」


「ウォルチェスターの名は言ってなかったからね。けど『もしかしたらまだ気付いてないかもなー』とは思ってたけど、ホントに気付いてなかったとはね」


「うううう……」


「責めてるわけじゃないの。フィーナらしいし、できればずっと気付かれないままがよかったんだけどね。変な気づかいしてほしくないのよ」


 苦笑交じりにオリビアが告げる。話の流れと状況からして、意図的に伝えていないような意味がこもっているように聞こえた。


 戸惑うサリアとカイルに、オリビアはフィーナと初めて顔を合わせた時のこと、それからの事を話した。


 オリビアとフィーナが初めて顔を合わせたのは、アルフィードとオリビアが親しくなってからのことだ。


 生徒が休日に実家に帰宅する際、友人が同席することもあるのだと聞き、オリビアもアルフィード宅訪問を強く望んだ。


 セクルト貴院校は基本、貴族の子女が通う学び舎だ。


 アルフィードのような市井出身の例外はあれど、それはごくまれな状況であった。


 まれであれど、皆無ではない。最初、実家に訪れる友人との話を聞いた両親は、アルフィードと同じく市井出身の生徒だと思い込んでいた。


 ……まさか、貴族籍の生徒が好き好んで民家を訪問しようと考えるわけがないと思っていたからだ。


 アルフィードも、初回は「王族としてではなくアルフィードの友人として迎えられたい」とのオリビアの意思を汲んで、本来の身分を意図的に口にしなかった。


 両親の反応を見て「勘違いしている」と気付いていたが、敢えて気付かないふりをした。オリビア自身が、素のアルフィードの家族を見たいと望んだからだ。


 オリビアの望みはかなえられ、休日の二日間は、オリビアが満足のいく時間をすごすことができた。


 一度きりだと思っていたオリビアのアルフィード実家訪問は、それから何度か行われた。


 オリビアは気にしていないようだったが、オリビアに対する両親の言動を、アルフィードは看過しきれず、数回目の訪問後に、オリビアの本来の身分を両親に明かした。


 リオンとロアが慌てふためいたのは言うまでもない。


 それからリオンとロアは、オリビアを王女として対応するようになったのだが、フィーナは幼く状況を理解しきれないこともあって、それまでと変わらぬ「姉の友人」としての対応をとっていた。


 年を経るごとに敬語等が増えたので、アルフィードは後に「両親から本来の身分を聞いていた」と思い込んでいたが、リオンとロアにしても「フィーナにはアルフィードが伝えていると思っていた」と、互いの思い違いが発覚する。


 そうした状況下にあったフィーナが、オリビアを王女と思い至るのには、いささか無理があった。


 王族の特徴である銀髪銀瞳を有していても、王族の親戚筋にはそれらを有している者もいる。分かれに分かれた血筋系統から時折、銀髪銀瞳の子が成されるとも耳にしていた。


 それらの知識も相まって、フィーナはオリビアを「王女」と思わない状況が発生したのだった。


 姉の言葉を聞いて、カイルが「なぜ」と眉をひそめた。


 オリビアが「ウォルチェスター」と名乗っていれば、フィーナもリオンとロアも「王女」と認識していたはずだ。


 それを敢えて認識させないような行動をとったオリビアが、カイルには理解できなかった。


 そうしたカイルの想いはオリビアにも伝わったのだろう。


 オリビアは苦笑を浮かべて「時が来れば……あなたにもいつかわかるわ」とだけ答えた。


「身分がなくても変わらないものを与えてくれる者がどれほど価値があるものか。出会えたなら大切にしなさい」


 告げるオリビアの真意をカイルは図りかねながら、それ以上何も言うことはできなかった。




フィーナがオリビアの素性を知らなかった、裏事情です。

オリビアが素性を明かそうとしなかった心情に関しては、語る場があればまたその時に。

アルフィードと知り合う前に、ちょっとした出来事があったのですが……書く機会あるかなぁ?


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