39.プリエラ 10
そうした後、顔を覆っていた手を離して、両手をワキワキと蠢かした。
「はにかんだ笑顔、あどけない仕草。
私より年上なのに、場馴れしてない様子で庇護欲を煽って。
いつも冷徹鉄面皮、淡々とされているのに、苦手分野にはおどおどまごまごおぼつかなくて。
男性的感性なのかと思いきや、少女のような憧れがあって。
高い品ではないのに、嬉しそうで――私とお揃いでも喜んでくれるって、どれだけ人がいいんですか!?
そんな女性的な部分、見せたかと思ったら、騎士様らしく、凛々しくあられて――!
私っ!
おどおどしてたら手を取って助けて、抱きしめてあげたくなって!
けど、凛々しい姿には羨望の想いで遠くから焦がれる少女の想いになって!
どう接すればいいんですか!?」
「せやろ、せやろ~」
手をワキワキさせ、わななくアルフィードに、セレイスは我が事を褒められたように満足げだ。
「まさかプリエラのことで、こうして語れる日が来るとは思わんかったわ」
セレイスは立場上、プリエラへの想いを伏せている。
プリエラは女性としての評価が低い。
皇太子妃候補に名が上がる面々の賛辞に、セレイスは同調できなかった。
プリエラだったら、もっと上手く対処できるだろうに。
思っても、彼女の深部を知らない面々の前で話しても意味がない。
そうしたジレンマを抱き続けたセレイスにとって、自分の想いを代弁するかのごとく想いを吐露するアルフィードとの会話は、楽しくて仕方なかった。
アルフィードの想いは、セレイスと同じだからでもある。
自分が好ましく思っているものの、好ましい部分を語りあえる。
それがこれほど心躍るとは、セレイスも思っていなかった。
プリエラを認めてくれるアルフィードの話が嬉しくて、プリエラを褒める話ができるのが嬉しくて仕方ない。
これまでひた隠しにしてきた分、反動も大きかった。
アルフィードとの会話が楽しくて仕方ない。
――訂正。
アルフィードとプリエラのことを語れるのが楽しくて仕方なかった。
主軸はプリエラだ。
プリエラに関して語れるなら、相手がアルフィードでなくともセレイスは満足できた。
アブルード国民でないアルフィードが、プリエラの良さに気付いたことに、残念な想いを感じつつ、国民でないからこそ、皇太子の立場、プリエラの立場を気にせず話せる部分もあった。
因果なものだと感じつつ、今は甘んじて状況を受け入れている。
「それにしても。
プリエラにブレスレット買わせたのは、ようやってくれたわ」
アルフィードの吐露を同調しながら聞いて、アルフィードが落ち着きを見せてからセレイスが告げる。
荒いだ呼吸を整えたアルフィードが、セレイスの言葉に首を傾げた。
「プリエラ嬢が欲しいようでしたので、後押しお願いしただけですが。
意図を汲んで下さって、こちらこそありがとうございます」
頭を下げるアルフィードにセレイスは苦笑する。
「あれに宝飾品与えんのは骨いるんや」
「ほね?」
「難儀なんよ」
言い換えても、アルフィードは不可解な表情のままだ。
セレイスは肩をすくめて言葉を続けた。
「プリエラも言うとうたやろ。
自分には似合わへんと。
せやから、もろても身につけんのや」




