38.プリエラ 9
見られた恥ずかしさにおどおどするプリエラに、アルフィードは思わず小さく微笑んでしまう。
「お揃いですね」
「え……?」
(――――あ)
驚くプリエラの表情を見て、アルフィードは「しまった」と発言に後悔した。
捕らわれの身と捕えている側。
相いれない者同士で「お揃い」などこころよく思わないだろう。
「お――お揃い、ですか」
プリエラは高揚した表情を見せて、顔を赤くし、焦っている。
アルフィードも慌てて訂正した。
「ごめんなさい。
お揃いだなんて――いい気がしませんよね」
「――っ!
いいえっ!」
声を上げるプリエラに、アルフィードは驚いた。
驚くアルフィードを見て、プリエラもすぐに我に返り、顔をしかめて俯く。
そうしてポツリポツリと話し始めた。
「私は――女性らしい物が似合いません。
女性とは家の付き合いだけの方ばかりで、友人と言える方もおりません。
お揃いの物だなんて――これまでありませんでした。
そうしたことをされる方もいらっしゃるとは聞いていましたが、何がいいのかよくわかりませんでしたが……」
そう言ったプリエラは、顔を上げると恥ずかしげな苦笑を浮かべた。
「気に入った同じ物を持てるって、嬉しいものなんですね」
苦笑しつつ、それでも嬉しそうに、プリエラはブレスレットに触れながらアルフィードに話した。
アルフィードがプリエラの笑顔を見たのはこれが初めてだ。
アルフィードはプリエラの笑顔にあてられつつ「けど」と気になっていることをたずねた。
「嫌いな人とお揃いだなんて、いやじゃないですか?」
嫌われているとは思っていないが、プリエラにアルフィードは心を許してはならない、注意しなければならない関係である自覚はある。
その思いを告げたアルフィードに、プリエラはすっと真顔になった。
宿の同室、それぞれのベッドに並んで座っていたプリエラは、静かに立ち上がるとアルフィードの前に屈んで片膝をついた。
左手を右胸に当て、ベッドに座るアルフィードを見上げる。
「あなたは我が国に重要な方だとお伺いしています。
それを抜きにしても、人柄は尊敬に値します。
あなたからすれば、私共は無体を働いた輩でしょうが、私どもの役目はあなたを無事、本国へ届けること。
信頼してほしいなどおこがましいですが……危険から守ると約束します」
右胸に当てた左手手首に、ブレスレットが見える。
プリエラの突然の行為に、アルフィードは戸惑って何も言えなかった。
そんなアルフィードに、プリエラは苦笑する。
「あなたの方こそ。
私とお揃いなど嫌になりませんか?」
「っ!
いいえっ!」
反射的に叫んだアルフィードは、自分の言葉に驚いた。
嫌ではない。
それは本心だ。
――けれど。
敵同士と言える関係なのにと、その想いが拭えない。
戸惑いつつ、そろりとプリエラを見ると、彼女はアルフィードの答えに安堵していた。
ほっと安心した表情を見せるプリエラを見て、アルフィードは心を決めた。
攫われた状況、自分の立場、オーロッド達の立場。
当事者の気持ちと、相反する関係性。
セレイスとの協定を頭の片隅に置きつつ、プリエラ、セレイス、オーロッドに対して、自分なりに真摯に向き合おうと――敵だからと反発するのはやめようと思ったのだった。
だって――。
◇◇ ◇◇
「卑怯ですよ、あの方は――っ!」
顔を両手で覆って、アルフィードはかぶり振る。




