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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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38.プリエラ 9


 見られた恥ずかしさにおどおどするプリエラに、アルフィードは思わず小さく微笑んでしまう。


「お揃いですね」


「え……?」


(――――あ)


 驚くプリエラの表情を見て、アルフィードは「しまった」と発言に後悔した。


 捕らわれの身と捕えている側。


 相いれない者同士で「お揃い」などこころよく思わないだろう。


「お――お揃い、ですか」


 プリエラは高揚した表情を見せて、顔を赤くし、焦っている。


 アルフィードも慌てて訂正した。


「ごめんなさい。

 お揃いだなんて――いい気がしませんよね」


「――っ!

 いいえっ!」


 声を上げるプリエラに、アルフィードは驚いた。


 驚くアルフィードを見て、プリエラもすぐに我に返り、顔をしかめて俯く。


 そうしてポツリポツリと話し始めた。


「私は――女性らしい物が似合いません。

 女性とは家の付き合いだけの方ばかりで、友人と言える方もおりません。

 お揃いの物だなんて――これまでありませんでした。

 そうしたことをされる方もいらっしゃるとは聞いていましたが、何がいいのかよくわかりませんでしたが……」


 そう言ったプリエラは、顔を上げると恥ずかしげな苦笑を浮かべた。


「気に入った同じ物を持てるって、嬉しいものなんですね」


 苦笑しつつ、それでも嬉しそうに、プリエラはブレスレットに触れながらアルフィードに話した。


 アルフィードがプリエラの笑顔を見たのはこれが初めてだ。


 アルフィードはプリエラの笑顔にあてられつつ「けど」と気になっていることをたずねた。


「嫌いな人とお揃いだなんて、いやじゃないですか?」


 嫌われているとは思っていないが、プリエラにアルフィードは心を許してはならない、注意しなければならない関係である自覚はある。


 その思いを告げたアルフィードに、プリエラはすっと真顔になった。


 宿の同室、それぞれのベッドに並んで座っていたプリエラは、静かに立ち上がるとアルフィードの前に屈んで片膝をついた。


 左手を右胸に当て、ベッドに座るアルフィードを見上げる。


「あなたは我が国に重要な方だとお伺いしています。

 それを抜きにしても、人柄は尊敬に値します。

 あなたからすれば、私共は無体を働いた輩でしょうが、私どもの役目はあなたを無事、本国へ届けること。

 信頼してほしいなどおこがましいですが……危険から守ると約束します」


 右胸に当てた左手手首に、ブレスレットが見える。


 プリエラの突然の行為に、アルフィードは戸惑って何も言えなかった。


 そんなアルフィードに、プリエラは苦笑する。


「あなたの方こそ。

 私とお揃いなど嫌になりませんか?」


「っ!

 いいえっ!」


 反射的に叫んだアルフィードは、自分の言葉に驚いた。


 嫌ではない。


 それは本心だ。


 ――けれど。


 敵同士と言える関係なのにと、その想いが拭えない。


 戸惑いつつ、そろりとプリエラを見ると、彼女はアルフィードの答えに安堵していた。


 ほっと安心した表情を見せるプリエラを見て、アルフィードは心を決めた。


 攫われた状況、自分の立場、オーロッド達の立場。


 当事者の気持ちと、相反する関係性。


 セレイスとの協定を頭の片隅に置きつつ、プリエラ、セレイス、オーロッドに対して、自分なりに真摯に向き合おうと――敵だからと反発するのはやめようと思ったのだった。


 だって――。




       ◇◇       ◇◇




「卑怯ですよ、あの方は――っ!」


 顔を両手で覆って、アルフィードはかぶり振る。






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