32.セレイス 18
なぜそう思ったのか。
今は思い出せない。
しかし、セレイスがプリエラを好ましく見ていて、彼女を信頼しているのを感じた。
プリエラは人と人との駆け引きも、仕事上の駆け引きも苦手だろうとわかる。
不器用ながら、与えられた仕事に真摯に向き合う彼女を、好ましく思っていた。
――敵対するこの状況下でなければ。
その彼女がセレイスには砕けた態度をとる。
互いに尊重した上でだ。
二人が恋仲なら。
二人の話から、オリビアの打開策が見つかるのでは。
そう思って聞いたのだが、セレイスはプリエラとの恋仲を否定した。
それから話はアルフィードの想定していなかった方向へと進んだのだった。
「やっこさんは――どう思うとるよう見える?」
「やっこさん――?」
「プリエラや」
「どう……、ですか?」
アルフィードは首を傾げる。
曖昧すぎて、聞きたい本質がわからない。
戸惑うアルフィードを、セレイスは焦れて声を荒げた。
「せかやら俺のこと――……っ!」
言ってハッとする。
自分で自分の言ったことに驚きつつ、口を閉ざして羞恥と後悔に苛まれた。
アルフィードから顔を背け、伏せ目がちのセレイスを意外に思いつつ、アルフィードは思ったままを口にした。
「信頼されてるようにお見受けしますが」
アルフィードの答えを、セレイスは表情を変えず聞いていた。
「信頼――な」
自虐的な笑みを口元に浮かべたのは、しばらくしてからだった。
男女の関係に疎いと自他ともに認めるアルフィードでも、セレイスの気持ち、セレイスとプリエラの関係を察した。
「大切に……想われているのですね」
「片道通行やがな」
ふいとセレイスは顔をそむける。
その仕草、表情から、プリエラの気持ちは明らかになっていないのだと、アルフィードは察した。
セレイスに気を許していても、信頼していても。
恋焦がれる感情はまた別だ。
セレイスも、プリエラから嫌われてないとわかりつつ、核心まで踏み込めていないのだろう。
セレイスとプリエラを見ていると、どうしても、オリビアとディルクを思い出した。
二人の信頼関係は強固だ。
強固な中に――異性として相手を見る感情が、時折ほの見えていた。
二人とも何も言わないので、アルフィードも気付かないふりをしていた。
気付かないふりをしているのは、二人がアルフィードに何も言わないからも理由の一つだが、もう一つ――。
サヴィス王国第一位王位継承者――オリビア・ウォルチェスター。
オリビアの状況を考えてのものでもあった。
第一位王位継承者――次の最有力国王候補。
オリビアの伴侶には、国でなら上級貴族、もしくは他国の王族が望ましい。
ディルクはそれらに該当しない。
本人たちもわかっているから、敢えて触れずにいる。
アルフィードも下手に踏み込めないので、気付かないふりを続けていた。
そうしたところへ、意図せず――捕らわれの身の上ながら、近しい状況の権力者と接する機会を得た。
「あの……」
おそるおそる、セレイスを伺いながらアルフィードは口を開いた。
「プリエラ嬢のお気持ちを、それとなく聞いてみましょうか?
できるかどうかは、約束できませんが、女性同士の話の中で、聞けるかと――」
アルフィードの言葉に、セレイスは呆けた顔でアルフィードを見た。




