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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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32.セレイス 18


 なぜそう思ったのか。


 今は思い出せない。


 しかし、セレイスがプリエラを好ましく見ていて、彼女を信頼しているのを感じた。


 プリエラは人と人との駆け引きも、仕事上の駆け引きも苦手だろうとわかる。


 不器用ながら、与えられた仕事に真摯に向き合う彼女を、好ましく思っていた。


 ――敵対するこの状況下でなければ。


 その彼女がセレイスには砕けた態度をとる。


 互いに尊重した上でだ。


 二人が恋仲なら。


 二人の話から、オリビアの打開策が見つかるのでは。


 そう思って聞いたのだが、セレイスはプリエラとの恋仲を否定した。


 それから話はアルフィードの想定していなかった方向へと進んだのだった。


「やっこさんは――どう思うとるよう見える?」


「やっこさん――?」


「プリエラや」


「どう……、ですか?」


 アルフィードは首を傾げる。


 曖昧すぎて、聞きたい本質がわからない。


 戸惑うアルフィードを、セレイスは焦れて声を荒げた。


「せかやら俺のこと――……っ!」


 言ってハッとする。


 自分で自分の言ったことに驚きつつ、口を閉ざして羞恥と後悔に苛まれた。


 アルフィードから顔を背け、伏せ目がちのセレイスを意外に思いつつ、アルフィードは思ったままを口にした。


「信頼されてるようにお見受けしますが」


 アルフィードの答えを、セレイスは表情を変えず聞いていた。


「信頼――な」


 自虐的な笑みを口元に浮かべたのは、しばらくしてからだった。


 男女の関係に疎いと自他ともに認めるアルフィードでも、セレイスの気持ち、セレイスとプリエラの関係を察した。


「大切に……想われているのですね」


「片道通行やがな」


 ふいとセレイスは顔をそむける。


 その仕草、表情から、プリエラの気持ちは明らかになっていないのだと、アルフィードは察した。


 セレイスに気を許していても、信頼していても。


 恋焦がれる感情はまた別だ。


 セレイスも、プリエラから嫌われてないとわかりつつ、核心まで踏み込めていないのだろう。


 セレイスとプリエラを見ていると、どうしても、オリビアとディルクを思い出した。


 二人の信頼関係は強固だ。


 強固な中に――異性として相手を見る感情が、時折ほの見えていた。


 二人とも何も言わないので、アルフィードも気付かないふりをしていた。


 気付かないふりをしているのは、二人がアルフィードに何も言わないからも理由の一つだが、もう一つ――。


 サヴィス王国第一位王位継承者――オリビア・ウォルチェスター。


 オリビアの状況を考えてのものでもあった。


 第一位王位継承者――次の最有力国王候補。


 オリビアの伴侶には、国でなら上級貴族、もしくは他国の王族が望ましい。


 ディルクはそれらに該当しない。


 本人たちもわかっているから、敢えて触れずにいる。


 アルフィードも下手に踏み込めないので、気付かないふりを続けていた。 


 そうしたところへ、意図せず――捕らわれの身の上ながら、近しい状況の権力者と接する機会を得た。


「あの……」


 おそるおそる、セレイスを伺いながらアルフィードは口を開いた。


「プリエラ嬢のお気持ちを、それとなく聞いてみましょうか?

 できるかどうかは、約束できませんが、女性同士の話の中で、聞けるかと――」


 アルフィードの言葉に、セレイスは呆けた顔でアルフィードを見た。





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