31.セレイス 17
「難しいというか――統括されてる方は、見てすぐわかるのですか?」
セレイスは、皇帝に皆が傅くように、統括者も同じ扱いをされると思っていたが――言われて気付いた。
セレイスも知らないのだから、人前に出ない可能性があると。
「できたら顔を覚えて教えてほしいんやけど――無理なら名ぁなり、何かしら掴んで欲しいんや。
条件クリアしてるかどうかは聞いてから判断するさかい」
アルフィードは眉を寄せて俯いて考え込んでいたが――破格の申し出だと認識していたので承諾した。
受け入れなければ、自力で逃走を計画するしかない。
その労力を考えれば、接点がある可能性にかけたかった。
セレイスの申し出を受け入れつつ、アルフィードは彼の動向を伺った。
「どうしたん?」
アルフィードの視線に気づいたセレイスが、首を傾げてアルフィードを見る。
「いえ……」
一度は濁して逡巡したものの、意を決して口を開いた。
「プリエラ譲とは恋仲ですか?」
アルフィードに想定外の質問をされたセレイスは、目を見開いて声を失った後。
「な……っ!
ななななっ、何を言うとんねんっ!?」
顔を赤くして、うろたえ、挙動不審となったのである。
――正直。
セレイスがここまで取りみだすとは、アルフィードも思っていなかった。
セレイスのプリエラに対する態度は、彼女を慮っているとわかる。
厳格な性格のプリエラが、セレイスには砕けて軽口を口にし、そうしながらセレイスに全幅の信頼を置いているとわかる。
オーロッドに拉致され、プリエラとセレイス、二人と接するようになってほどなく、アルフィードは二人が恋仲だと思っていた。
必要以上に接点を持たず、つかず離れず、けれど必要時には互いに互いを信頼した行動をとる――。
二人の関係は、アルフィードが仕え、同時に友人であるオリビアを思い起こさせるものだった。
オリビアと――彼女の護衛騎士、ディルク。
二人の微妙な立ち位置を――互いの、口にはしない面映ゆい思いをアルフィードも感じていた。
オリビアはサヴィス王国の第一王位継承者だ。
対するディルクは貴族籍だが王族に匹敵する貴族ではない。
セレイスとプリエラの状況が、オリビアに似ていると思えたアルフィードは、気になって聞いていた。
――が。
セレイスがここまで動揺するとは思っていなかった。
「ち――違うのですか?」
だったら申し訳ざいません。
頭を下げるアルフィードに、セレイスは「いやいやいや!」となぜか焦り続ける。
セレイス自身、自分でも収拾できないほど混乱し、わたわたすることしばらく。
落ち着きを取り戻したセレイスは、場を切り替えようと咳払いをした後、顔の赤みを残したまま、伺うようにアルフィードを見た。
「俺とプリエラが恋仲やて……なんで思うたんや?」
聞かれたアルフィードの方が戸惑ってしまう。
「仲が……よろしいですよね?」
「仲良うても、男女の関係とはありえへんやん?」
顔の赤みを残したまま、セレイスはアルフィードを伺うように訊ねる。
――なぜ、このようなことを聞かれるのだろう。
不思議に思いつつ、アルフィードはそう思い至った経緯を話した。
二人が仲がいいのはもちろんだが、軽口を言い合える関係性をアルフィードは重視していた。
そうしたやり取りをする際、プリエラもセレイスも、互いに対する配慮を持ち、ざっくばらんに踏み込みつつ、一線を守りつつ――互いを尊重しつつ。
アルフィードは最初、セレイスとプリエラの関係を、互いを相棒とするような、仕事上信頼している間柄だと思っていた。
男女間で成立するのを珍しく思いつつ――ある時、セレイスのふとした態度で、プリエラへの気持ちを感じた。




