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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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31.セレイス 17


「難しいというか――統括されてる方は、見てすぐわかるのですか?」


 セレイスは、皇帝に皆がかしずくように、統括者も同じ扱いをされると思っていたが――言われて気付いた。


 セレイスも知らないのだから、人前に出ない可能性があると。


「できたら顔を覚えて教えてほしいんやけど――無理なら名ぁなり、何かしら掴んで欲しいんや。

 条件クリアしてるかどうかは聞いてから判断するさかい」


 アルフィードは眉を寄せて俯いて考え込んでいたが――破格の申し出だと認識していたので承諾した。


 受け入れなければ、自力で逃走を計画するしかない。


 その労力を考えれば、接点がある可能性にかけたかった。


 セレイスの申し出を受け入れつつ、アルフィードは彼の動向を伺った。


「どうしたん?」


 アルフィードの視線に気づいたセレイスが、首を傾げてアルフィードを見る。


「いえ……」


 一度は濁して逡巡したものの、意を決して口を開いた。


「プリエラ譲とは恋仲ですか?」


 アルフィードに想定外の質問をされたセレイスは、目を見開いて声を失った後。


「な……っ!

 ななななっ、何を言うとんねんっ!?」


 顔を赤くして、うろたえ、挙動不審となったのである。




 ――正直。


 セレイスがここまで取りみだすとは、アルフィードも思っていなかった。


 セレイスのプリエラに対する態度は、彼女を慮っているとわかる。


 厳格な性格のプリエラが、セレイスには砕けて軽口を口にし、そうしながらセレイスに全幅の信頼を置いているとわかる。


 オーロッドに拉致され、プリエラとセレイス、二人と接するようになってほどなく、アルフィードは二人が恋仲だと思っていた。


 必要以上に接点を持たず、つかず離れず、けれど必要時には互いに互いを信頼した行動をとる――。 


 二人の関係は、アルフィードが仕え、同時に友人であるオリビアを思い起こさせるものだった。


 オリビアと――彼女の護衛騎士、ディルク。


 二人の微妙な立ち位置を――互いの、口にはしない面映ゆい思いをアルフィードも感じていた。


 オリビアはサヴィス王国の第一王位継承者だ。


 対するディルクは貴族籍だが王族に匹敵する貴族ではない。


 セレイスとプリエラの状況が、オリビアに似ていると思えたアルフィードは、気になって聞いていた。


 ――が。


 セレイスがここまで動揺するとは思っていなかった。


「ち――違うのですか?」


 だったら申し訳ざいません。


 頭を下げるアルフィードに、セレイスは「いやいやいや!」となぜか焦り続ける。


 セレイス自身、自分でも収拾できないほど混乱し、わたわたすることしばらく。


 落ち着きを取り戻したセレイスは、場を切り替えようと咳払いをした後、顔の赤みを残したまま、伺うようにアルフィードを見た。


「俺とプリエラが恋仲やて……なんで思うたんや?」


 聞かれたアルフィードの方が戸惑ってしまう。


「仲が……よろしいですよね?」


「仲良うても、男女の関係とはありえへんやん?」


 顔の赤みを残したまま、セレイスはアルフィードを伺うように訊ねる。


 ――なぜ、このようなことを聞かれるのだろう。


 不思議に思いつつ、アルフィードはそう思い至った経緯を話した。


 二人が仲がいいのはもちろんだが、軽口を言い合える関係性をアルフィードは重視していた。


 そうしたやり取りをする際、プリエラもセレイスも、互いに対する配慮を持ち、ざっくばらんに踏み込みつつ、一線を守りつつ――互いを尊重しつつ。


 アルフィードは最初、セレイスとプリエラの関係を、互いを相棒とするような、仕事上信頼している間柄だと思っていた。


 男女間で成立するのを珍しく思いつつ――ある時、セレイスのふとした態度で、プリエラへの気持ちを感じた。


 

 


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