20.スーリング祭【その後】
「サリア~~!! ありがと~~!!」
スーリング祭終了後、控室に戻ったフィーナはサリアに抱きついて礼を述べた。
スーリング祭に参加した、セクルト貴院校の2学年生、3学年生が何事かとあっけにとられた目を向ける中、フィーナは周囲に構わず「間に合ってよかった~」と泣き言を口にしている。
「ちょっ、やめて。はしたない」
周囲の視線を気にして慌てるサリアに、二人に挟まれて『ニギャ』と潰された声を上げる白い伴魂。
サリアはフィーナから離れようとするのだが、フィーナがそれを許さないという攻防が続いていた。
「ホントのホントのホントに間に合わないと思ってたのっ! サリアって恩人。まさに神!」
「そういうのはいいから。とにかく離れて」
言いながら、サリアが力押しできないのは、間に挟まれて苦しげなフィーナの伴魂を気遣ってのことなのだが、主であるフィーナは自身の伴魂を気遣う様子はない。
どれほど不安だったか、心もとなかったかと、自分の思いを語るのに夢中になっている。
そんなフィーナと伴魂、サリアの状況を見かねたカイルが、ベリっと二人を引き剥がし、呆れを含んだ眼差しをフィーナに向けた。
「落ち着け。――伴魂が失神しかけているぞ」
「……あ゛。」
カイルの指摘でフィーナは目を回している自身の伴魂に気付いたのだった。
◇◇ ◇◇
控室は全学年合同で使用しているので、会話には誰もがそこそこ注意を払うものだが、今年度の新入生は違っていた。
話す声の音量は日常会話のそれと大差なく、話す内容も当人にとっては日常会話と大差なかったのだが、周囲の者たちにとっては興味がそそられる内容に溢れていた。
周囲が側耳を立てていると序盤で気付いたカイルが、他学年の退室を促したことで細部まで聞かれずにすんだのだが、手遅れ感が否めなかった。
控室にはカイルとフィーナとサリア、そしてカイルとフィーナの衣装や髪を普段に戻そうと、せかせか働く使用人たちだけとなった。
カイルとフィーナとサリアは、三人が向かい合うように三角の形で向かい合わせた椅子に腰をおろしている。
フィーナは伴魂を膝に抱いていた。
カイルの伴魂は鳥籠に入っている。籠の中の方が落ち着くらしい。
とりあえず、カイルはフィーナに「伴魂はどうしていたんだ?」と尋ねた。
フィーナは一度首を傾げて「何してたの?」と腕の中の伴魂に尋ねた。
つい、と顔を上げた白い伴魂に「ふむふむ」とフィーナは頷いている。
意識下のやり取りをしているようだ。
伴魂の答えを聞いたフィーナはカイルに顔を向けた。
「お昼寝してたって」
「…………。お前なあ」
もしかしたらと想定していた返答を返されて、カイルはがっくりと肩を落とし、右手で顔を覆った。
「スーリング祭すっぽかした理由がそれか?」
あきれ果てたカイルの言葉に、聞いていたサリアが少々驚いたようにつぶやいた。
「――カイル……殿下も『すっぽかした』なんて使うんですね」
「これほど当てまはる言葉などないだろ。――それよりスチュード……、いや、サリア。慣れないなら『殿下』と呼ばなくていい」
「しかし――」
「勝手悪いんだろ。何度も中途半端に言葉を止めらる方がよほど気になる。敬称付ける方が勝手がいいなら止めないが、俺たちはセクルト貴院生だ。身分の差などない」
どこかで聞いたことのある内容をきっぱりと言い切るカイルを見つつ、戸惑いをにじませるセリアに視線を向けつつ、フィーナは前から思っていたことを「ねぇ」と二人に話しかけた。
「二人って、前からの知り合い?」
「知り合いっていうか……」
何と答えればいいのかと、サリアはカイルの顔色を伺い、カイルはそんなサリアを視界の隅で捕えているだろうに、気付かないふりをしてきっぱりと言い切った。
「小児校、中児校が一緒だった。昔からの知り合いだ。幼いころは身分の差などわからないまま遊んでいたからな。その名残があるんだろ」
告げるカイルを、サリアが何か言いたげな眼差しを向けていたが、それ以上の提言は諦めたようだった。
サリアの様子が気になりながらも「そうなんだ」とフィーナは受け入れた。
忌憚ないやり取りができるのなら、その方がいいのだろうとも思える。
サリアとカイルの様子を眺めつつ、髪飾りや衣装の装飾をはずして行く使用人に身を委ねていた時、前触れもなく控室の扉が勢いよく開いた。
「やっほー! 生徒諸君っ!」
晴れやかな笑顔と共に、オリビアが控室へと足を踏み入れたのだった。
ちょっと短いです。
会話が多いと書きやすいですね。