24.セレイス 10
騎士の訓練時は胸当をして体型を隠していたにしても。
今のプリエラは、胸当だけでは隠しきれない豊満な体つきだ。
セレイスはプリエラを見ないようにしていたのだが、当の本人はそうしたセレイスの気持ちにも気付いていた。
過去にも同じようなやりとりがあったので、同じ疑問を持つと思ったのだ。
「これも、いろいろされました」
締めるところは締めて、持ちあげるところは強引に寄せ上げて。
女性らしい体型を強調する衣服なのだと、プリエラは告げる。
「そう――なんや」
プリエラから視線を逸らしつつセレイスは答える。
ぎこちなくなる仕草、早鐘を打つ鼓動。
自身の気持ちに戸惑いつつ、目的としていたユースヴォート家、長兄への連絡を、プリエラに頼んだのだった。
結果論から言えば――ユースヴォート家の長兄と対面を果たせ、有能な彼と繋がりが持てて「良し」とすべきだろうが。
元々、ユースヴォート家新人騎士との接点を持ちたかったからだと思い至ると「何したかったんや自分」と自責の念に苛まれた。
セレイスは気が向いた時にオーロッド所有の騎士団を近場から眺め、プリエラ姉妹が参加しそうな舞踏会に出席するようになった。
セレイスお付きの面々は「何をしているのか」といぶかしんだが、セレイスは「気晴らしや」と明言を避けた。
――なぜプリエラが気になるのか。
剣術の腕は一目置けるが、力主体の騎士団では、同騎士団団員からの「負けないが勝てない」プリエラの評価は低い。
評価は低いが。
泥臭く汗臭く男臭い。
そうした中で、プリエラは清涼とした、他と一線を画した存在だった。
美麗な容姿に目を奪われ。
凛とした立たずまいから目を離せず。
流れる剣筋に心を奪われた。
(そうや。剣術に惚れたんや)
そう自分自身に言い聞かせつつ、オーロッドの元へ足を運ぶようになっていた。
――誤魔化していた自分の気持ちは、すぐに認めることとなる。
オーロッドに会う名目で騎士団に足を運んでいた際。
自然とプリエラを探して、彼女を見つけて。
はやる気持ちをかすめ取るように、同騎士団の男性がプリエラに話しかけ、プリエラも頬を緩めて談笑していた。
親しげな二人を目の当たりにしたセレイスは、冷徹な心地と噴き上がる激情を、同時に経験したのだった。
プリエラと親しげに話していた男性騎士は、彼女のいとこで既婚者だった。
幼いころから知る弟妹と接する心地で話しかけていた。
プリエラも幼少から知っている、頼れる親類に心を開いて接していた。
セレイスはそれに嫉妬したのだ。
自分の心の狭さを知って落ち込んだ。
同時に、自分のプリエラの入れ込みようを自覚した。
自分の気持ちを認めたが「皇太子」の立場が気持ちを許さなかった。
プリエラの家系は上級貴族の一つで、皇太子妃でも申し分ないが、プリエラの気質が皇太子妃にはふさわしくない。
いくら芯が強くとも、外交的素養がなければ話にならない。
それから言えば、小柄な姉妹の方が素養がある。
そう思い至り、プリエラへの気持ちを諦めた。
――諦めたのだが。
プリエラは上級貴族の一員だ。
皇族が催す式典に出席することもある。
そうした場で、意図せずプリエラを見ると、諦めた気持ちが甦った。
それさえ押し殺して諦めること数回。
何かしらプリエラと接点、接触を持ってしまい――気持ちが再燃した。
同じことを繰り返した三度目。
セレイスは自分の気持ちを諦めることを諦めた。




