表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
473/754

24.セレイス 10


 騎士の訓練時は胸当をして体型を隠していたにしても。


 今のプリエラは、胸当だけでは隠しきれない豊満な体つきだ。


 セレイスはプリエラを見ないようにしていたのだが、当の本人はそうしたセレイスの気持ちにも気付いていた。


 過去にも同じようなやりとりがあったので、同じ疑問を持つと思ったのだ。


「これも、いろいろされました」


 締めるところは締めて、持ちあげるところは強引に寄せ上げて。


 女性らしい体型を強調する衣服なのだと、プリエラは告げる。


「そう――なんや」


 プリエラから視線を逸らしつつセレイスは答える。


 ぎこちなくなる仕草、早鐘を打つ鼓動。


 自身の気持ちに戸惑いつつ、目的としていたユースヴォート家、長兄への連絡を、プリエラに頼んだのだった。




 結果論から言えば――ユースヴォート家の長兄と対面を果たせ、有能な彼と繋がりが持てて「良し」とすべきだろうが。


 元々、ユースヴォート家新人騎士との接点を持ちたかったからだと思い至ると「何したかったんや自分」と自責の念に苛まれた。


 セレイスは気が向いた時にオーロッド所有の騎士団を近場から眺め、プリエラ姉妹が参加しそうな舞踏会に出席するようになった。


 セレイスお付きの面々は「何をしているのか」といぶかしんだが、セレイスは「気晴らしや」と明言を避けた。


 ――なぜプリエラが気になるのか。


 剣術の腕は一目置けるが、力主体の騎士団では、同騎士団団員からの「負けないが勝てない」プリエラの評価は低い。


 評価は低いが。


 泥臭く汗臭く男臭い。


 そうした中で、プリエラは清涼とした、他と一線を画した存在だった。


 美麗な容姿に目を奪われ。


 凛とした立たずまいから目を離せず。


 流れる剣筋に心を奪われた。


(そうや。剣術に惚れたんや)


 そう自分自身に言い聞かせつつ、オーロッドの元へ足を運ぶようになっていた。


 ――誤魔化していた自分の気持ちは、すぐに認めることとなる。


 オーロッドに会う名目で騎士団に足を運んでいた際。


 自然とプリエラを探して、彼女を見つけて。


 はやる気持ちをかすめ取るように、同騎士団の男性がプリエラに話しかけ、プリエラも頬を緩めて談笑していた。


 親しげな二人を目の当たりにしたセレイスは、冷徹な心地と噴き上がる激情を、同時に経験したのだった。




 プリエラと親しげに話していた男性騎士は、彼女のいとこで既婚者だった。


 幼いころから知る弟妹と接する心地で話しかけていた。


 プリエラも幼少から知っている、頼れる親類に心を開いて接していた。


 セレイスはそれに嫉妬したのだ。


 自分の心の狭さを知って落ち込んだ。


 同時に、自分のプリエラの入れ込みようを自覚した。


 自分の気持ちを認めたが「皇太子」の立場が気持ちを許さなかった。


 プリエラの家系は上級貴族の一つで、皇太子妃でも申し分ないが、プリエラの気質が皇太子妃にはふさわしくない。


 いくら芯が強くとも、外交的素養がなければ話にならない。


 それから言えば、小柄な姉妹の方が素養がある。


 そう思い至り、プリエラへの気持ちを諦めた。


 ――諦めたのだが。


 プリエラは上級貴族の一員だ。


 皇族が催す式典に出席することもある。


 そうした場で、意図せずプリエラを見ると、諦めた気持ちが甦った。


 それさえ押し殺して諦めること数回。


 何かしらプリエラと接点、接触を持ってしまい――気持ちが再燃した。


 同じことを繰り返した三度目。


 セレイスは自分の気持ちを諦めることを諦めた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ