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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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19.スーリング祭【伴魂 後編】


「ここよ!」


 声は思いのほか大きく、室内に響き渡った。フィーナの声に驚いた面々が視線を向ける。


 その時のフィーナには、周囲の状況が見えていなかった。


 伴魂だけを見ていた。


 伴魂の存在を、今はっきりと確認できる。


 サリアの腕から飛び出した伴魂は、人と人との間を素早くすり抜けながら、一目散にフィーナへと駆け寄る。


 その気配をフィーナも感じていた。


 白い伴魂は間近まで来ると、大きく飛び上がって広げたフィーナの腕の中に飛び込んだ。


 フィーナも伴魂を受け止めつつ、勢い余って、その場で数回、体を回転させる。


 そうして勢いを殺して腕の中の伴魂を確認すると、我知らず、ぎゅっと抱きしめていた。


 久しぶりに感じる柔らかな体毛が心地よい。


 こうして触れるのも久しぶりなのだと実感して、胸の奥が苦しくなった。


『おまっ……! 伴魂参加の大事な行事なら、先に話しとけよっ!』


 急いで駆けてつけてくれたのだろう。ぜーはーと呼吸が荒い。


 抱きあげられたことで近くなった耳元に、伴魂が小声で告げる。


 フィーナも「だって……」と小声でつぶやいた。


「呼んでも来てくれなかったじゃない」


『大事なことだと思わなかったんだよ。

 祭典に一緒に出ないとやばいとか、理由聞いてたら応じてたよ。

 お前、大した用がなくても気分で呼ぶ時あるし、寝言でも呼んだりするから、ただ呼ばれてるだけだと、重要だと思わなかったんだ』


 言われてフィーナも「そう言えば」と振り返る。


 胸の内で伴魂を呼び続けていたが、その時に理由まで考えたことはなかった。


 嫌われた、見限られたからではないとわかって、安堵感が胸に広がると同時に、目の奥に熱を感じて涙がにじんだ。


『急ぎなら腕輪を締めりゃよかったのに。そうすりゃ緊急だってわかるのにさ』


「……嫌だったんだもん」


『は?』


「それ、嫌なの」


『嫌って――』


「締めたら痛いでしょ。

 見えないところにいる時に締めたら、加減がわかんないもん。

 痛いのは嫌」


 白い伴魂はフィーナの言葉に呆れつつ、けれど少々、嬉しくもあった。


 確かに、腕輪が締まるのは気持ちのいいものではない。


 身体的な痛みもあるが、板硝子に爪をたててギギギと掻いた音を聞いた時に肌が粟立つような、不快さが体に広がる。


 痛みよりその不快さが苦手だった。


 とはいうものの。


『それじゃ戒め着けてる意味ないから』


「……どうしてもの時は使う。けど、そうじゃないときは嫌」


 今回も腕輪を使ってもおかしくない部類だった。


 それを使わなかった状況で、ではどのような時に使うのか。


 疑問に思いつつ『サリアに感謝しろよ』と伴魂はフィーナに耳打ちした。


 サリアがザイルに連絡を取り、ザイルからネコに知らせがあったおかげで、こうして祭典に間に合ったのだ。


 サリアの尽力を、ネコは伝えた。


 フィーナもそれはわかっている。


 後で謝礼を述べようと思っているところで「――フィーナ」と間近に近寄ったカイルに小声をかけられた。


「――国王が御待ちだ」


 言われて、周囲の視線を一心に集めている状況に気付いた。


 フィーナから国王までの区間が、見事に人がはけている。


 真っすぐに続く道を見て、フィーナはそっとカイルを伺った。


 誰かの導きがあるのか、声をかけられてから向かった方がいいのか。


 そうしたことを考えていると、カイルは小さく頷いて見せた。


 フィーナ一人で国王の元へとのようだった。


 フィーナは伴魂を抱きかかえたまま、ゆっくりと国王の元へ歩みを進めた。


『――国王?』


 歩くフィーナに、伴魂が『なぜ』と訝しげに小声で尋ねる。


「――挨拶の時に見なかったし、珍しいから見てみたいって。他の人は挨拶の時に見てるから」


『――うっわ。めんどくせー』


「――紹介だけだから我慢して」


 小声で潜めいた話をしながら足を進める。


 側に来たフィーナと白い伴魂を見て、国王は感嘆の息を漏らした。


「確かに珍しい獣だな。初めて目にする」


 それから国王に聞かれるまま、話せることだけ返答した。


 出会った時の事を聞かれて「森で拾った」と答えると「他にいなかったのか」と更に聞かれる。


(そう言えば……)


 森に迷い込んで力尽きたのだと思ってはいたが、他のネコについては考えたことがなかった。


 生物として存在するのだから、親なり家族なり存在するはずだ。


(家族とかって、どうなってるの?)


 意識下で自身の伴魂に尋ねると、少しの逡巡の後『はぐれてからはわからない』との返事だった。


 国王には伴魂からの返事を伝えつつ、フィーナは自身の伴魂の、種としての存在を意識することとなった。


 国王との対話が終わると、フィーナは自身の伴魂を腕に抱いたまま退席した。


 その後、自由な談笑とダンスの時間となったのだが、伴魂を抱えているおかげもあって、声をかけられることもなく、無事スーリング祭を終えたのだった。


 ……若干、反省点も否めないのだが、それは後の話となる。




前編後編に分けたので、今回は短めの更新です。

本当はもうひと騒動、書く予定だったのですが(そちらがメインなほど)、それはまた別の機会に。

思ったような展開になかなかならないです。(苦笑)

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