15.セレイス 4
「さて。えらい無茶したもんやなぁ」
くつくつと喉奥で笑う声は愉快そうだが――セレイスの表情も雰囲気も、笑いながら本心はそうでない気配を漂わせていた。
そうした雰囲気を感じて、アルフィードは後ずさりする。
セレイスはゆっくりとアルフィードへ歩を進める。
保護対象を見つけて保護する――。
そうした様子は感じない。
セレイスから感じるのは、嘲笑と侮蔑――怒気だ。
アルフィードが感じたのは間違いではなかった。
狭い路地裏で、ゆっくりとアルフィードに近寄ったセレイスは、じりじりと後退し、壁際に追われたアルフィードに下卑た笑みを向ける。
「おさとがしれるっちゅうんは、こういうことやろなぁ?」
「っ!!」
嘲笑しながらセレイスはアルフィードの腕を掴んだ。
ぎり、と音が聞こえそうな力強いものだ。
悲鳴を上げそうになるのを、アルフィードは口を閉ざして我慢した。
なぜか――セレイスに弱々しい姿を見せてはならないと思えた。
腕をつかんだセレイスを、アルフィードはキッと見据える。
その視線を受けたセレイスは、わずかに感心した様子をみせたものの、嘲笑を浮かべる表情に変わりはない。
「世間知らずにもほどがあるわ。
女子供がこんな夜更けに一人でおって、危ない目に合わんわけないやろ」
そう言われると、アルフィードも反論できない。
――日が落ちてから女性子供は単独で家から出るべきでない。
そう教えられていたが、その理由を教えられたこともなかったし、考えたことも無かった。
言葉のまま受け止めただけで「暗くて見えない箇所があるからだ」と思っていた。
男性に絡まれるなど――犯罪の危険を考えていなかった。
注意を促す側も、露骨な危険を説明しない。
そうした環境下で過ごしていたアルフィードは、実際、そうした状況を経験しなければ、セレイスの危惧も理解できなかっただろう。
アルフィードはセレイスに反論できず、口を引き結んで彼を見る。
アルフィードの視線を受けて、セレイスは嘲笑を浮かべた。
「自覚はあるみたいやな?」
告げて、掴んだアルフィードの腕を引いて歩き出す。
掴まれた腕はアルフィードが顔をしかめるほど力強いものだった。
勝手な行動をしたアルフィードへの戒めだろう――。
そう思ったアルフィードは何も言えず、痛みを我慢していた。
逃亡計画がうまく行かなかったことを歯がみしつつ、自身に降りかかった危険を回避されたことに安堵しつつ――セレイスに助けられた状況に、何とも言えないジレンマを感じていた。
宿に戻ると、セレイスはオーロッドの元にアルフィードを連れて行った。
宿はオーロッドとセレイスが同室だ。
部屋に入るなり、セレイスは物を投げ入れるように、掴んでいたアルフィードの腕を放り投げる。
急な行為に、アルフィードは成されるがまま、たたらを踏みつつ室内に入った。
逃げ出した気まずさから、オーロッドとプリエラから視線を逸らす。
――一瞬、見えた二人の表情は、安堵と驚きが見て取れた。
「阿呆やと思うとったけど、ここまでとは思わんかったわ」
セレイスはため息交じりに、アルフィードを見つけた状況をオーロッドとプリエラに話した。
セレイスの話を聞いた二人が、息を飲む気配を感じた。
アルフィードは自分の無知を露呈された恥ずかしさから、肩身の狭い思いを感じていた。
「傷物になる前に、保護したさかい」
アルフィードの無謀な行為を責めつつ、恩をきせつつ。
皮肉を多分に含んで話すセレイスに、アルフィードは何も言えなかった。
意地の悪い言い方をしているが、セレイスの話す内容は真実だ。
仕事が忙しくて、更新遅れました。
仕事で必要な資格試験受験もあったので。
更新時間も異なってます。
いつもは早朝更新でした。
今日は書いた時の更新でしています。
セレイスは毒舌キャラです。
口調は柔らかだけれど、内容はバッサバッサ、相手を斬り捨てる。
そんな性格です。多分。(苦笑)
プリエラもセレイスもオーロッドも、突発的なので、作者も性格を把握しきれてませんが、勝手に動いてくれるので、まあ、こんなものかなぁ。……って感じです。




