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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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15.セレイス 4


「さて。えらい無茶したもんやなぁ」


 くつくつと喉奥で笑う声は愉快そうだが――セレイスの表情も雰囲気も、笑いながら本心はそうでない気配を漂わせていた。


 そうした雰囲気を感じて、アルフィードは後ずさりする。


 セレイスはゆっくりとアルフィードへ歩を進める。


 保護対象を見つけて保護する――。


 そうした様子は感じない。


 セレイスから感じるのは、嘲笑と侮蔑――怒気だ。


 アルフィードが感じたのは間違いではなかった。


 狭い路地裏で、ゆっくりとアルフィードに近寄ったセレイスは、じりじりと後退し、壁際に追われたアルフィードに下卑た笑みを向ける。


「おさとがしれるっちゅうんは、こういうことやろなぁ?」


「っ!!」


 嘲笑しながらセレイスはアルフィードの腕を掴んだ。


 ぎり、と音が聞こえそうな力強いものだ。


 悲鳴を上げそうになるのを、アルフィードは口を閉ざして我慢した。


 なぜか――セレイスに弱々しい姿を見せてはならないと思えた。


 腕をつかんだセレイスを、アルフィードはキッと見据える。


 その視線を受けたセレイスは、わずかに感心した様子をみせたものの、嘲笑を浮かべる表情に変わりはない。


「世間知らずにもほどがあるわ。

 女子供がこんな夜更けに一人でおって、危ない目に合わんわけないやろ」


 そう言われると、アルフィードも反論できない。


 ――日が落ちてから女性子供は単独で家から出るべきでない。


 そう教えられていたが、その理由を教えられたこともなかったし、考えたことも無かった。


 言葉のまま受け止めただけで「暗くて見えない箇所があるからだ」と思っていた。


 男性に絡まれるなど――犯罪の危険を考えていなかった。


 注意を促す側も、露骨な危険を説明しない。


 そうした環境下で過ごしていたアルフィードは、実際、そうした状況を経験しなければ、セレイスの危惧も理解できなかっただろう。


 アルフィードはセレイスに反論できず、口を引き結んで彼を見る。


 アルフィードの視線を受けて、セレイスは嘲笑を浮かべた。


「自覚はあるみたいやな?」


 告げて、掴んだアルフィードの腕を引いて歩き出す。


 掴まれた腕はアルフィードが顔をしかめるほど力強いものだった。


 勝手な行動をしたアルフィードへの戒めだろう――。


 そう思ったアルフィードは何も言えず、痛みを我慢していた。


 逃亡計画がうまく行かなかったことを歯がみしつつ、自身に降りかかった危険を回避されたことに安堵しつつ――セレイスに助けられた状況に、何とも言えないジレンマを感じていた。


 宿に戻ると、セレイスはオーロッドの元にアルフィードを連れて行った。


 宿はオーロッドとセレイスが同室だ。


 部屋に入るなり、セレイスは物を投げ入れるように、掴んでいたアルフィードの腕を放り投げる。


 急な行為に、アルフィードは成されるがまま、たたらを踏みつつ室内に入った。


 逃げ出した気まずさから、オーロッドとプリエラから視線を逸らす。


 ――一瞬、見えた二人の表情は、安堵と驚きが見て取れた。


「阿呆やと思うとったけど、ここまでとは思わんかったわ」


 セレイスはため息交じりに、アルフィードを見つけた状況をオーロッドとプリエラに話した。


 セレイスの話を聞いた二人が、息を飲む気配を感じた。


 アルフィードは自分の無知を露呈された恥ずかしさから、肩身の狭い思いを感じていた。


「傷物になる前に、保護したさかい」


 アルフィードの無謀な行為を責めつつ、恩をきせつつ。


 皮肉を多分に含んで話すセレイスに、アルフィードは何も言えなかった。


 意地の悪い言い方をしているが、セレイスの話す内容は真実だ。





仕事が忙しくて、更新遅れました。

仕事で必要な資格試験受験もあったので。

更新時間も異なってます。

いつもは早朝更新でした。

今日は書いた時の更新でしています。

セレイスは毒舌キャラです。

口調は柔らかだけれど、内容はバッサバッサ、相手を斬り捨てる。

そんな性格です。多分。(苦笑)

プリエラもセレイスもオーロッドも、突発的なので、作者も性格を把握しきれてませんが、勝手に動いてくれるので、まあ、こんなものかなぁ。……って感じです。


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