14.セレイス 3
わからないから、細心の注意をはらった。
下手に抵抗せず、相手の感情を阻害せず――。
「――迷子に、なってしまって……」
もっともらしい言いわけを話すと、男性陣は納得した様相を見せた。
「そうか~。大変なんだね~。
じゃあさぁ。
家族の人が見つかるまで、俺達と遊ばない?」
同情する素振りを見せつつ、上記言葉を発すると、けたけたと愉快そうに笑う。
アルフィードは状況を理解できず、返事ができなかった。
言っている意味が、わからない。
迷子になったと言うアルフィードに、家族が見つかるまで「遊ぼう」?
そこは「一緒に家族を探してあげる」ではないのか?
戸惑うアルフィードに、声をかけた男性が――すっと目を細めた。
「――お互い、気持ちいいことしようって言ってるんだよ」
陽気な雰囲気が一変。
低い声で告げると、アルフィードの口を片手で塞ぎ、抵抗しようとする両腕を、片手で掴み、動きを封じた。
「んんん~~~!!」
声を上げようとし、精いっぱいの抵抗を試みるアルフィードを、動きを封じた男性は嘲笑する。
「ははははっ。
こんな所でいいものみつけるなんてな。
――たっぷり楽しもうよ。お互いにさ」
掴まれた両手、圧迫感を持った男性の様相。
アルフィードはぞっとする寒気を感じながら、必死に抵抗を試みた。
できうる限り抵抗し続けた。
そうして抵抗し続けていたが、女性と男性との体力差は顕著に表れた。
結局、まともな抵抗ができないまま、相手のいいように手を引かれる。
言いようのない不快感、説明できない嫌悪感を感じつつ――恐怖心に涙がこぼれそうになったときだった。
「――うわっ!?」
アルフィードに絡んでいた男性が声を上げて、ルフィードから手を離し、敵意と斬りつけた相手に、顔を向けたときだった。
「――せやから阿呆は嫌いなんや」
金髪、短髪、キツネ目のごとき細目。
プリエラと同じくオーロッドに仕える男性部下だ。
後に名をセレイスと知る細身の男性が、男達に剣を向けていた。
斬られた腕を押さえて、酔った男はセレイスに敵意を向ける。
セレイスは男達が眼中にない様子で、アルフィードに目を向ける。
オーロッドに拉致されてから、セレイスと接する機会がなかった。
側にいたのはプリエラだったし、オーロッドが時々、それに加わる程度だ。
セレイスは見張り役だろうと、アルフィードは思っていた。
見張りとしても、剣術の心得はあるのだろう。
剣を構える姿は、アルフィードもハッとするものだった。
アルフィードはオリビアの騎士団面々の練習風景を見慣れている。
剣を構える姿勢だけでも、腕のいい騎士は風格があった。
そうした騎士と同じものをセレイスから感じた。
「なんだテメェ!」
酔って頭に血が上った男達が、セレイスに殴りかかる。
数人が一度に向かってきても、セレイスは平然としていた。
「――ほんま。阿呆ばっかや」
細い目が少しだけ見開かれたと思った時には、セレイスは動いていた。
人が入り乱れる中、アルフィードには何が起きたのか、細部は見えなかった。
はっきりしているのは、しなやかで、流れるように動いたセレイスが、男達を打ちのめしたことだ。
剣を持ちながら、斬りつけるのでなく、殴打と蹴打、剣の柄等を使用してダメージを与え、戦闘不能としていく。
一人に数人がかりで敵わない、圧倒的な力の差に、酔った男達は赤かった顔を青くして慄いた。
セレイスは男達に興味もなかったのだろう。
ため息交じりに剣を鞘におさめた。
「目ざわりや。はよう去ね」
告げるセレイスに、男達はビクリと身震いすると、悲鳴を上げながらその場から逃げだした。
そうした男達を眺め見た後、セレイスはついとアルフィードに顔を向ける。
セレイスの話し方も、つっこみ勘弁願います……。
まがいです。
違うとわかっていながら、敢えて間違った言い方(方言にすべきところをそうしていない)してます。
セレイス。
クセのある性格です。




