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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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13.セレイス 2


 緊張と恐れで、高鳴る鼓動を胸元で握り締めた両手で抑えつつ、アルフィードは宿から出る。


 日が落ちた夜の刻限だったが、立ち並ぶ店の明かり、露店の照明で、歩くのに不自由さは感じなかった。


 夜の街は、アルフィードが経験したことのない喧騒が広がっている。


 以前、夜に貴族街の雑貨店を訪問した時とも違った熱気がある。


 アルコールを摂取して飲み歩く人々とすれ違いながら、アルフィードは周囲を伺った。


 多少の金銭は手元にある。


 どこか人目のない路地裏で夜をやり過ごし、日が登ってから乗合馬車で国境に行く。


 国境を越えるのは難しいかもしれないが、自分の身元を主張して、サヴィス王国へ打診を求めようと考えていた。


 オーロッドが国境を越える時のやりとりは、かすかに漏れ聞こえた会話から把握している。


 身元を証明する物――。


 アルフィードはオリビアから、側仕えの証しとして指輪を賜っていた。


 それは、アルフィードがオリビアの側仕えとなった当初、周囲への牽制、身元の証しとして賜ったものだった。


 そうした経緯から、常に身に着けている。


 指輪には、サヴィス王国、王族縁を示す刻印が施され、加えてオリビア縁だとわかるようになっている。


(この指輪があれば、身元の保証になる――)


 そう、アルフィードは信じていた。 


 すえた臭い、雑多に行き交う人々。


 夜独特のやり取りが行われる店々の前を通り過ぎながら、アルフィードは喧騒から離れた場所を探していた。


 ――アルフィードは知らなかった。


 華やかな場所から離れた場所が、どのような環境なのか。


 アンダーダークなやり取りが行われる場所が存在することも知らなかった。


 すれ違う人の波、行き交う人とすれ違う時、アルフィードは細心の注意を払っていた。


「肩がぶつかった」


「怪我をした」


 ……など、誇張した因縁をふっかける、性格の悪い輩が存在すると、アルフィードも知っていたので関わりないよう、注意を払っていたのだが。


 薄暗がりの中ながら、人目も人の出入りもない街路地を見つけたアルフィードは、そこでひっそりと夜をやり過ごそうとした。


 三階建てと二階建ての宿屋が隣り合う建物の間で、膝を抱えて体を小さくして、目立たないように息をひそめて座り込む。


 主要な通りからは賑やかな声が聞こえてくる。


 そうした声を聞きながら、アルフィードは膝を抱えて体を小さくしていた。


 目立たないように――人目につかないように――息をひそめて。


 どれほど時間がたっただろうか。


 しばらくはアルフィードの思惑通り、人目につくことはなかった。


 人、一人が通れる狭い街路地なので、人の通りも無い。


 このまま、日が明けるまでまてば――。


 そう思いつつ、深夜の刻限に、訪れる睡魔にあがないきれず、うとうとしているときだった。


「あっれ~~??」


 側で聞こえた男性の声に、驚いてハッと意識が覚醒する。


 ――しかし、その時には手遅れだった。


「――っ痛っ!」


 ハッとすると同時に、右腕を掴みあげられる。


 座り込んでいた体勢から、急に腕を掴まれ、立たされて。


 驚きと恐怖で相手を見ると――年の頃、三十代後半から四十代前半と思われる男性が三人、アルフィードの側に居た。


 驚いて――なされるがまま、男性を見るアルフィード。


 アルフィードの腕を掴んだ男性は、酔いが回っているのだろう。


 赤い顔とろれつの回らない口で、アルフィードに声をかけた。


「こんなところで、一人で、なにしてんの~~?」


 話した男性、側にいる同性代二人の男性。


 酔いが回っていると思しき三人は、捕まえたアルフィードを見て、けたけたと笑っている。 


 それが酔った行為だからなのか、普段からそういった行為をする人なのか。


 アルフィードにはわからない。






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