11.プリエラ 2
驚きに目を見開いて声を失うプリエラに、オーロッドは静かに口を開いた。
「いずれもアルフィード嬢を慕って集まった魔物だ」
オーロッドの言葉に、プリエラの驚きは深まる。
オーロッド達に気付いた魔物は、キーキーと、警戒心みなぎらせた声と、檻を揺さぶる攻撃的な態度を見せる。
「世話をする使用人からは、大人しく餌をもらっているらしい。
使用人に甘える魔物もいるそうだ」
「――そんな、まさか」
オーロッドとプリエラに、攻撃的な態度を見せる魔物からは、想像できない。
「世話人には、アルフィード嬢も敵愾心を持っていないからだろう」
プリエラは、オーロッドが言う意味を理解できず、眉を寄せた。
「アルフィード嬢は自分達に敵対心を持っている。
心情は、アルフィード嬢を慕う魔物にも移るようだ」
オーロッドの言葉に、プリエラの驚きは一層増した。
「では、この魔物たちは――」
「森に行った時、捕獲した魔物だ。
小屋にアルフィード嬢を滞在させ、周囲に罠をかけ。
その罠にかかった魔物たちだ。
グレムハイド伯爵の小屋では、魔物たちと接していたから、歯向かうのだと思っていたが。
接することなくとも、思考は届くようだな」
「いつの間に――これほど――」
森にアルフィードを連れて行っていたのは知っていた。
プリエラも同行していたが、魔物を捕獲していたのは知らなかった。
「いろいろと実験段階だからな。
そなたには魔物よりアルフィード嬢に心を砕いて欲しかった」
「え――」
初めて聞くオーロッドの考えに、プリエラは驚きを隠せない。
「同性として気付く点もあるだろう。
自分の意志とは関係なく、無理矢理他国に連れて来られた女児。
アルフィード嬢の気持ちに寄り添って、接してみてはくれないか」
言われて、プリエラは戸惑った。
プリエラは軍人としての生活が長く、軍に関係しない女性とは学生以降、接していない。
学生時も、華やかな場に憧れる女性が苦手だった。
「自分がアルフィード嬢の状況に置かれたらどう思うか。
どうして欲しいか。
そうした観点から接してほしいのだ」
「私より、セレイスの方が向いていると思いますが――」
セレイスは社交性が高い。
饒舌で軽く受け答えし、責任感が弱いところが悩ましいが、プリエラより話が合うのではないかと思う。
「セレイスでは、後に信用を失うだろう」
言って、オーロッドは眉を寄せてため息を落とす。
オーロッドはセレイスの性格も理解したうえでプリエラに打診した。
不器用でも、真摯に向き合う姿勢を望んでいた。
それでも戸惑うプリエラに、オーロッドは口を開く。
「公にされていないが、ルーフェンスの巫女は血筋で受け継がれる家系だ。
一族が住まう村を、国が隠れ村として保護している」
「――え?」
驚くプリエラは「だったら」と声を上げる。
「その村から、新しい巫女を立てれば――」
「ルーフェンスの巫女は等しく短命だ。
村人も短命で、そうした事情から村人数も限られている。
そうした中から選定された巫女は、実力を兼ねた者なのだ。
――失踪したルーフェンスの巫女。
彼女の実力に相当する巫女は、今の村にはいない。
アルフィード嬢は、巫女と同等――それ以上の能力を持った者なのだ」
「アル、フィード嬢が……」
オーロッドの話を聞いたプリエラは、ますますわけがわからなくなる。
ルーフェンスの巫女を排出する村がありながら、その村人からでなく他国民を巫女にしようとするのが理解できない。
同時に、他国民がそうした能力を持っている状況が、プリエラには理解できなかった。
プリエラの困惑を、オーロッドも察した。
「――これも、公にできない話なのだが」
そう言って、プリエラに極秘事項だと告げる。
了承としてプリエラが頷いたのを確認して、オーロッドは話を続けた。
「ルーフェンスの巫女を排出する村人には、等しく外見的特徴がある。
深青の髪、同色の瞳。
白磁の肌に切れ長の眼」
オーロッドが告げる外見的特徴は、アルフィードに符合していた。
驚くプリエラに、オーロッドは自身の考えを告げる。
「仕事の関係で、ルーフェンスの巫女、隠れ村と村人を知っていた。
アルフィード嬢もサヴィスの騎士団に採用された時から見知っていた。
接点がなく、遠目でしか見ていない時は気付かなかったが。
王女を襲撃した際、間近で接して、珍しい魔物を介しての魔法の使い方から、巫女の素質を考えていた。
アルフィード嬢の両親を知らぬゆえ、何とも言い難いが。
隠れ村の村人縁の生い立ちだろうと思っている。
過去に、村から逃走した者は存在するからな。
元はアブルード国民の血筋だとしたら。
少しは考えが変わりはしないか?」
問われても、プリエラはすぐには返事はできなかった。
元々はアブルード国民の血筋――。
――確かに。
そう思うと、頑なに拒否していた心が、自分でもよくわからない心地に、少しだけ変わってきていた。




