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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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18.スーリング祭【伴魂 前編】


 国王は王女の話を聞いて「なぜ知っているのか」と表情に出したが、すぐに「そう言えば」と思い至った。


「そなたの側仕えに、姉がいるのだったな」


 そうした繋がりで聞き及んだ話なのだろうと判じたようだった。


「して、大事なかったのか」


 当時、無事だったのかと、国王はフィーナに尋ねる。


「はい。お役人様が早急に対処してくださいましたので危害を受けることもございませんでした」


「確かに、そのような事が起これば用心しようとなるだろう」


「私の側仕えと同じく、市井出身の者です。側仕えも申しておりましたが、市井と比べ、城内やセクルトは魔力の強い者達が多く、伴魂が主を捜す際、最初は手間取っていたそうです。

 市井では強い魔力を持つ者が少なかったので、主を捜すさい、強い魔力を目的とすればよかったのですが、セクルトや城内では魔力の強いものが多く、慣れるまでは惑わされたそうです。

 フィーナ・エルド嬢はセクルトに来て日も浅く、不慣れな事も多いのは致し方ない事かと思われます」


「市井出身で新入生時からスーリング祭に出ているのか」


 王の驚きの言葉に、裏事情を知る面々は、ひやりと肝を冷やした。


 試験内容に余計な手が加わった裏事情に関しては、国王には知られていない。


 細かなことまで知られていれば、フィーナが出席していることに関して疑念を持たれただろうが、国王は試験事情までは把握していないようだった。


「そなたの側仕えも、スーリング祭でまみえたな。あれの伴魂も美しいものだった。

 妹御の伴魂も珍しいと聞き及んでいたが、そうした状況ならば致し方なかろう。

 近くに伴魂の気配はあると申したな。祭典に間に合えば、ぜひとも見てみたいものだ」


「着きましたら真っ先にお伺い申し上げます」


 フィーナが一礼をして顔を上げると、オリビアと目があった。オリビアは変わらず穏やかな笑みをたたえている。


 オリビアの進言に助けられた。オリビアが王女と知った心境は複雑極まりないが、助け船の数々には感謝平伏しきりの心持ちだ。


 オリビアに対しては問い正したいことが多数あったものの、話の区切りがついたようなので、生徒の列に戻ろうと再びカイルの手をとった時に、第一王子が口を開いた。


「スーリング祭開催は事前に知れたことだったろう。様々な状況を想定しておくべきだったのではないのか」


「――申し訳ございません」


 フィーナが謝罪すると「そなたでなく」と第一王子が告げる。


「同伴者として手助けするべきではなかったのか? カイルはスーリング祭を経験しているだろうに」


 まさかカイルが非難されるとは思わず、フィーナは驚きを隠せなかった。


 辛辣な言葉を述べながら、第一王子の表情は穏やかだ。穏やかなのだが、瞳の奥は底冷えする冷たさを宿している。


「見聞きするのと実際執り行うのでは、勝手が違いましょう」


 オリビアが助け船を出すが、そちらを一瞥することなく第一王子はカイルを見ている。


 沈黙が続き、フィーナはそっとカイルを伺った。カイルは顔を強張らせて立ち尽くしている。放心しているようにも見えた。


 どうも様子がおかしい。


(カイル――?)


 フィーナはカイルに添えた手に力を込めた。


 強く握りしめられた手に、カイルがハッとしてフィーナを見た。


 我に返った表情を覗かせたものの、すぐに気を取り直したようでくっと口元を引き結ぶと、自分の思慮の足りなさを詫びた。


 国王も「あまりないことなのだから」と、伴魂が側にいない状況自体が珍しいのだと取り成したことで、話は一応の終息を迎えた。


 それから祭典のプログラムに沿って、エスコート相手とのダンスが行われた。


 カイルとはこれまで何度も練習を重ねてきたので、ダンス自体には何の不安もなかった。


 他に人がいるからぶつからないように注意する必要はあったが、ダンスする人数に比べて室内は広いので、人と人との空間は十分に取られていた。


「ごめんなさい……」


 踊りながら、フィーナはカイルに謝った。


 カイルは「何のことか」と眉をひそめる。


「伴魂が、準備できなくて……」


 自分が非難されるだけだと思っていたのだが、まさかカイルが非難を受けるとは思っていなかった。


「いや――」と、カイルは小さく息を吐く。


「フィーナの伴魂が少々変わっていると知っていたんだ。

 ――兄上の言うように、配慮を怠った責はある。兄上は厳しい方だから」


 言って、苦笑を浮かべた。


(厳しい――)


 カイルの言葉を聞きながら、フィーナは第一王子が話していた内容、彼の表情を思い出していた。


 あれは厳しい分類になるのだろうか。


 フィーナもアルフィードから怒られることがあったが、それと伴魂に関する非難をカイルに告げた第一王子のそれとは違うように思えた。


 同時に、そのやり取りに関して、触れない方がいいようにも思えていた。


 一曲目のダンスが終わって、二曲目のダンスに移る。


 練習を重ねても、ダンスは苦手だとの思いが拭えない。


 自分の足運びだけでなく、カイルの足運びにも気を配らなければならないからだ。


 二曲目をどうにか終えようとしたとき、視界の隅に、控室に続く扉が映った。


 同時に、サリアがこっそりと顔を覗かせている。そのサリアが白い伴魂を抱き抱えているのも見えた。


(ーー『どこにいる!?』)


 それとほぼ同時に、伴魂から意識下に声が届いた。意識下のやりとりは普段あまりしないので、びくりと体が大きく反応してしまった。


 カイルも驚きつつ、ダンスを終えた挨拶を交わした。フィーナも挨拶そこそこに、控室に向かって両腕を広げて叫んでいた。




書くのに時間かかりました。

長くなったので、前編後編に分けてます。

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