7.アルフィード 5
◇◇ ◇◇
ルーフェンスの巫女。
オーロッドから聞いたそれが、どういったものなのか、アルフィードには概要しかわからない。
はっきりしたのは、オーロッドの狙いがアルフィード本人だったことだ。
監禁された小屋で、懐いた動物たちをオーロッドが斬り捨てた翌日、オーロッドと部下二人、そしてアルフィードは小屋を後にした。
泣き疲れ、意気消失したアルフィードは、言われるまま、成されるがままにオーロッドに従う。
男性部下が御者をする馬車に乗り、オーロッド、部下の女性と同席する馬車の中で、アルフィードはオーロッドから「ルーフェンスの巫女」に関する話を聞いた。
「魔物――サヴィス王国では『伴魂』と成りえる小動物を指すが。
警戒心の強い魔物がなぜか懐き、慕う人種が存在する。
それが――我が国で『ルーフェンスの巫女』と呼んでいる」
軍に力を注ぐアブルード国では、魔物と契約し、力を得る軍人を育てるのに力を入れている。
魔物との相性もあるので、まずは多くの魔物を捕獲し、軍人と契約できるか否かを確かめていく。
多数の魔物を捕獲しても、軍人と契約できるのは限られていると言う。
サヴィス王国で言う『伴魂契約』はアブルードでは『宿主契約』に該当した。
サヴィス王国では魔物を「伴魂」、使役者を「主」としている。
アブルード国では、魔物を「使い魔」、使役者を「宿主」としていた。
道すがら、ぽつぽつと話すオーロッドの話を、アルフィードは馬車窓から外を眺めて聞き流していた。
――今はとても、まともに話を聞く気になれない。
聞く気がなくとも、耳から入ってきた話は、簡単な箇所はすぐに理解できた。
「使い魔」と「宿主」の関係は、サヴィス王国の伴魂契約と同じだ。
アブルード国の「ルーフェンスの巫女」の資質が、なぜ自分にあるのか、なぜオーロッドが自分に目をつけたのか。
不明で理解できない点はいくつかあったが、今は訊ねる気概もなかった。
馬車窓の外を眺め、傷心した様子を見せるアルフィードの様子を見つつ、それでもオーロッドはぽつぽつと話を続けた。
ルーフェンスの巫女は、アブルード国では地位のある存在であること。
その性質上、外との関係を断たれる。
神聖的な部分もあり、実質、国に捕らわれた環境下でありながら、上流貴族と同等の衣食住が確保されている。
ガタゴトと馬車に揺られながら「だから何」と、オーロッドの話を聞くアルフィードは他人事だった。
自分にそうした素養があったから、アブルード国に連行されるにしても、アルフィードは「ルーフェンスの巫女」の末席だろう。
アルフィードは「ルーフェンスの巫女」の数ある一人として連行されると考えていた。
素質のある人間を多数、手元に置いておきたい。
そうした一人なのだろうと。
――オーロッドが現状を話すまでは、そう思っていた。
「一月ほど前、巫女が失踪した。
巫女の席は空席となっている。
その席に、そなたを有したい」
――発言の意味を理解するのに、時間がかかった。
理解したら理解したで、信じられない思いでオーロッドに目を向けた。
「ご自分がおっしゃっている意味、わかってますか?」
自分がしたことをわかっているのか。
その上で、告げるのか。
「無論」
オーロッドは即答する。
悪びれもせず告げるオーロッドを見て、アルフィードは激しい怒りが胸の内に渦巻いた。
アールストーン校外学習でオリビアを襲撃したこと。
懐いてくれた動物たちを、アルフィードの懇願を聞き入れず、斬り捨てたこと。
「聞く道理があるとお思いですか?」
「――プリエラ」
語気を荒げるアルフィードに、隣に座っていた金髪の女性がすらりと抜いた剣を、アルフィードの首筋に添える。
その金髪女性の行動を、オーロッドが名を呼んで制した。




