4.アルフィード 2
オーロッドはオリビアの騎士団絡みで、アルフィードを知っているはずだ。
フィーナと勘違いしたとは思えない。
珍しい伴魂が狙いなら、フィーナと同じく珍しいアルフィードが狙われたのだろうか。
実際、アルフィードの伴魂は部屋に居なかった。
気配を探っても、近くに感じない。
数キロ先でも所在がわかるはずなのに。
アルフィードの伴魂が狙いか。
もしくは。
(口封じ……)
その可能性が高いと、アルフィードは思う。
オリビアを襲撃したオーロッド。
彼が再びオリビア襲撃を試みようとしたところ、アルフィードに遭遇した。
余計な告げ口をしないよう隔離したのだろう。
(隔離ですめばいいけれど……)
その場で危害を受けなかったものの、このまま何もされないとは限らない。
邪魔しないよう捕えられているのか、オリビアへ脅迫の道具とするのか。
最終的には処分するのか――。
どの道、安全とは言えない。
衣食住は確保されるようだが、どこまで確かかわからない。
アルフィードはベッドが三つほど入る大きさの部屋を――実際にはベッドは一つだが――隅々まで調べた。
何かしら手だてはないかと探る。
こじんまりとした部屋は、古めかしい割には強固な作りだった。
出入口扉の建てつけも、両手の平分ほどの小窓も、アルフィードの力ではびくともしなかった。
二日目に、アルフィードは部屋の不具合探しを諦めた。
扉か窓か。
出入口から人目を盗んで抜け出したかったのだが、無理だ。
物理的に無理なら、人の意識の隙を探った。
食事やトイレ、風呂など、部屋を出る時や部屋に物が運ばれる時、様子を注意深く眺めて隙を探る。
アルフィードの世話は、ボブカットの金髪女性に任せているのだろう。
アルフィードは彼女と接するだけだった。
小屋に来てからはオーロッドを見ていない。
……ただ。
オーロッドと金髪の女性、若い男性、そしてアルフィードが意識を失う寸前、聞いた中年男性の声が時折、アルフィードの部屋にも漏れ聞こえていた。
声が聞こえるだけで、話す内容はわからない。
オーロッドではない中年男性が、時折声を荒げているのは聞こえた。
それを若い男性がなだめている声も聞こえる。
そうした声を聞きながら、アルフィードは虚ろな心地で小窓から外を眺めていた。
日が沈んで窓の外には夜闇が広がってる。
ベッド側のサイドテーブルに置いたランタンが、部屋を赤々と照らしていた。
ランタン内の炎の揺れに伴って、室内の明るさも揺らめく。
そうした揺らめきの中、窓外を眺めてオリビアや王城へと想いを馳せた。
ここでの生活は、衣食住、不便なく過ごせている。
広い浴場で毎日湯浴みでき、三食の料理も品があって味もいい。
旅で足を運んだ宿泊場だったら「大満足」の評価になるが、如何せん、今は捕らわれの身だ。
待遇がいいと、アルフィード自身感じている。
捕らえた相手の待遇がなぜいいのか――。
わからないまま一週間ほどたった時だった。
アルフィードはぼんやりと小窓越しに外を眺めていた。
庭らしき草が生い茂る様が見えるだけで、特筆するようなものもない。
それでも、狭い室内を見るより、外を眺める方が気が紛れた。
オリビア、フィーナ、自身の伴魂。
気になることはあっても、今の自分は何もできない。
動きようがない。
自分の状況を理解しつつ、どうにかしたいけれど手だてのないジレンマを抱きつつ。
気を紛らわそうと外を眺めている時だった。
アルフィードが眺める小窓の淵に、ピョンとウサギが乗ってきた。




