3.アルフィード
◇◇ ◇◇
スーリング祭会場近くの通路でオーロッドを見た時。
アルフィードはオリビアの身を案じた。
その場から駆けだしたのも、オリビアへ知らせようとしたものだった。
しかしオリビアに知らせる前にオーロッドに捕えられる。
「だ――っ!」
誰か助けて。
声は口を塞ぐ手で遮られた。
同時に、耳元でオーロッドが何か唱えるように呟く。
聞き慣れない言葉だった。
その言葉を聞いた途端、アルフィードは唐突な眠気に襲われた。
(魔法……!)
そう思った時には、意識を失いかけていた。
懸命に意識を保とうと抗おうとするが、敵わない。
薄れる意識の中。
「――それ姉だ! 用があるのは妹だろう!」
叫ぶ男性の声が聞こえた。
(妹……フィーナ……?)
フィーナと間違えられたのか。
以前、珍しいフィーナの伴魂が狙われた事があると、アルフィードも聞いている。
アルフィードの伴魂も珍しい。
妹と勘違いしたのか……。
思いながら、アルフィードの意識は完全に途切れたのだった。
目覚めると、見知らぬ部屋のベッドの上だった。
日が落ちたのだろう。
窓の外は暗く、部屋はランタンの明かりに照らされている。
知らない部屋――。
どこだろうと思いながら、眠気でぼんやりとする頭で周囲を見渡す。
見渡す中、ドア側で椅子に座る女性を見て、ぎくりと体が強張る。
同時に、眠気も吹き飛んだ。
ベッドから飛び起きて、腰に手をやるが、そこにあるはずの――護身用に忍ばせていた小太刀がない。
飛び起きたアルフィードを見て、女性が目覚めに気付いた。
「起きたか」
言って、ボブカットの金髪の女性は、椅子から立つとアルフィードへと足を進める。
年は二十代前半といったところだろうか。
細身でしなやかさを感じさせる女性だった。
白のシャツに黒のズボン。
腰に細身の剣を帯刀している。
切れ長の眼もとに涼やかな印象を受けた。
アルフィードはベットの上で片膝をたて、女性に警戒しつつ、身構えながら腰の辺りを探し続ける。
その動作を見た女性は、アルフィードが何をしているのか気付いて、口を開いた。
「小刀は預かっている」
もしかしてと思ったが、やはり――。
意識を失う前の状況から考えると、目の前の女性もこの場所も、オーロッドに関係しているのだろう。
「手荒にはしたくない。
余計なことはしないように」
言って、女性はアルフィードを眺めた。
強張る体で、アルフィードは彼女を見つめ返す。
「――返事は?」
しばらくの沈黙の後、そう訊ねる女性に、アルフィードはぎこちなく頷いて肯定を示した。
女性はアルフィードが頷いたのを確認すると、いくつかの注意事項を口にした。
「こちらの指示に従うように。
部屋には鍵をかけてある。
用がある時はベルを鳴らせ。
水はテーブルに用意してある。
三食は時間になったら用意する。
――あと。
逃げようと考えるだけ無駄だから、やめておけ」
そう話すと、女性は部屋を後にした。
外で鍵をかける音が聞こえる。
遠ざかる足音、人が近くに居ないのを確認して、アルフィードはすぐに扉を確認すると、言っていたように鍵がかかっていた。
(拉致――された……?)
なぜと考え、意識を失う前に聞いたやり取りを思い出す。
(フィーナと……間違えられた?)
思ったものの、すぐに思いなおす。




