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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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3.アルフィード 

 

     ◇◇       ◇◇




 スーリング祭会場近くの通路でオーロッドを見た時。


 アルフィードはオリビアの身を案じた。


 その場から駆けだしたのも、オリビアへ知らせようとしたものだった。


 しかしオリビアに知らせる前にオーロッドに捕えられる。


「だ――っ!」


 誰か助けて。


 声は口を塞ぐ手で遮られた。


 同時に、耳元でオーロッドが何か唱えるように呟く。


 聞き慣れない言葉だった。


 その言葉を聞いた途端、アルフィードは唐突な眠気に襲われた。


(魔法……!)


 そう思った時には、意識を失いかけていた。


 懸命に意識を保とうと抗おうとするが、敵わない。


 薄れる意識の中。


「――それ姉だ! 用があるのは妹だろう!」


 叫ぶ男性の声が聞こえた。


(妹……フィーナ……?)


 フィーナと間違えられたのか。


 以前、珍しいフィーナの伴魂が狙われた事があると、アルフィードも聞いている。


 アルフィードの伴魂も珍しい。


 妹と勘違いしたのか……。


 思いながら、アルフィードの意識は完全に途切れたのだった。




 目覚めると、見知らぬ部屋のベッドの上だった。


 日が落ちたのだろう。


 窓の外は暗く、部屋はランタンの明かりに照らされている。


 知らない部屋――。


 どこだろうと思いながら、眠気でぼんやりとする頭で周囲を見渡す。


 見渡す中、ドア側で椅子に座る女性を見て、ぎくりと体が強張る。


 同時に、眠気も吹き飛んだ。


 ベッドから飛び起きて、腰に手をやるが、そこにあるはずの――護身用に忍ばせていた小太刀がない。


 飛び起きたアルフィードを見て、女性が目覚めに気付いた。


「起きたか」


 言って、ボブカットの金髪の女性は、椅子から立つとアルフィードへと足を進める。


 年は二十代前半といったところだろうか。


 細身でしなやかさを感じさせる女性だった。


 白のシャツに黒のズボン。


 腰に細身の剣を帯刀している。


 切れ長の眼もとに涼やかな印象を受けた。


 アルフィードはベットの上で片膝をたて、女性に警戒しつつ、身構えながら腰の辺りを探し続ける。


 その動作を見た女性は、アルフィードが何をしているのか気付いて、口を開いた。


「小刀は預かっている」


 もしかしてと思ったが、やはり――。


 意識を失う前の状況から考えると、目の前の女性もこの場所も、オーロッドに関係しているのだろう。


「手荒にはしたくない。

 余計なことはしないように」


 言って、女性はアルフィードを眺めた。


 強張る体で、アルフィードは彼女を見つめ返す。


「――返事は?」


 しばらくの沈黙の後、そう訊ねる女性に、アルフィードはぎこちなく頷いて肯定を示した。


 女性はアルフィードが頷いたのを確認すると、いくつかの注意事項を口にした。


「こちらの指示に従うように。

 部屋には鍵をかけてある。

 用がある時はベルを鳴らせ。

 水はテーブルに用意してある。

 三食は時間になったら用意する。

 ――あと。

 逃げようと考えるだけ無駄だから、やめておけ」


 そう話すと、女性は部屋を後にした。


 外で鍵をかける音が聞こえる。


 遠ざかる足音、人が近くに居ないのを確認して、アルフィードはすぐに扉を確認すると、言っていたように鍵がかかっていた。


(拉致――された……?)


 なぜと考え、意識を失う前に聞いたやり取りを思い出す。


(フィーナと……間違えられた?)


 思ったものの、すぐに思いなおす。




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