1.オーロッドの所在
◇◇ ◇◇
オーロッド・ウィグネード。
アールストーン校外学習でオリビアを襲撃し、アルフィードを拉致したと思われる人物。
彼の名をアブルード国で探った際、意外にもすぐたどり着いた。
名が本名だったのだ。
サヴィス王国とアブルード国は疎遠だ。
本名でも素性は知れないと思っていたのだろう。
実際、フィーナの祖父の記録書がなければ、捜索は困難だった。
ウィグネード家は数ある貴族の一つに過ぎず、所有する領も辺境で、加えてオーロッドは分家の家系だった。
アブルード国でオーロッドを捜索しようとしても、ウィグネード家を一般市民は知らなかった。
彼の名が記録書にあったのは、戦果の功労者とて時折、名が挙がっていたからだ。
記録書にはオーロッドの素性も記されていた。
「城下に主たる住まいを構え、別邸をいくつか保持……」
フィーナの祖父の記録書を見て、アレックスがうめく。
「なぜフィーナのおじいさんがここまで知っているんだ?」
記録書に書かれるアブルード国の情報を、持ち回りで読む中、アレックスがフィーナに訊ねた。
その質問はアレックスだけでなく、カイル、リーサス、レオロード、ザイルも抱いたものだ。
同じ意見のマサトも『うんうん』と大きく頷いて同意する。
そうした面々に対し、祖父を知るフィーナだけが、なぜ疑問に思うのかと不思議そうに首を傾げた。
「おじいちゃん、物知りですから」
「物知りで納得できる域じゃない。
博学と時事に詳しいは別だよ。
自分の国じゃなくて、他国のことだし」
「おじいちゃん、メモ魔なんですよ。
物知りだけど、ここに書いてること全部は覚えてませんよ」
「いや、そうじゃなくて……」
『薬草のこと、詳しく書いてるなら理解できる。
軍の情報なんて、薬草関係ないのに何でメモってたのか、そこがわかんねーんだよ』
以前、フィーナと祖父の記録書の話をしたマサトが、再度想いを口にした。
一度は何となく納得できた気がしたが、改めて考えるとやはり納得できない。
マサトの言葉に、フィーナはフィーナで「なぜ不思議に思うのか、わからない」と首を傾げた。
「メモしてただけじゃないの?」
『だーかーらー。
戦績は公表されても、家の事情とか住んでる場所とか。
調べないとわかんねーだろ。
普通、公にされねーもん』
「何か気になったのかもね。
気になったら、調べないと気が済まない人だから」
『……他国の少将、気になる理由がわかんねーよ……』
「それは私もわかんない。
おじいちゃん、変わってるから」
「あはは~♪」とあっけらかんに笑うフィーナは「祖父はそう言う人」と割り切っていた。
フィーナ以外の面々は、納得しきれないものの、受け入れるしかなかった。
腑に落ちないものの、捜索の助けとなっているのは事実だ。
「もしや、フィーナの雑多な知識は……」
『じーさんの日記も、少なからず影響してんだろうな』
ふと呟くカイルに、マサトも同意する。
気になったものを何でも書きとめる祖父、気になった記述を読み込む孫。
この祖父あってのこの孫と、血の繋がりを感じる。
フィーナ達はオーロッドの住まいがある町の近くに野営を構え、ザイルとリーサス、アレックスとレオロードが交代で状況を探る。
邸宅の人の出入り、周辺に聞き込みをしたところ、オーロッドは長く邸宅に戻っていないと言う。
今は弟が邸宅の管理を任されているそうだ。
「周辺の話では、別邸で過ごす機会も多いそうです」
街の人ごみより、森など自然の中で過ごすのを好んでいると言う。
武芸の鍛練も、周囲を気にせず出来るからだろうと、周辺の住民は言う。
「時折、森の方から爆音が聞こえるそうです。
オーロッドの魔法の訓練だと言われています」
『森での音がここまで聞こえるって……。
どんだけの威力のある魔法、使えんだよ……』
「あくまで噂ですが」
報告するアレックスに、うめくマサト。
マサトの言葉に、アレックスは苦笑した。
「しかし、おかげで所在の目途もつきました」
アレックスと共に情報収集に出ていたリーサスが、地図を広げる。
地図にはオーロッド所有の別邸が二つ、丸が付けられている。
休日だったので、書く時間がありました。
新章突入です。




