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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第十章 ルーフェンスの巫女
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1.オーロッドの所在


       ◇◇       ◇◇


 オーロッド・ウィグネード。


 アールストーン校外学習でオリビアを襲撃し、アルフィードを拉致したと思われる人物。


 彼の名をアブルード国で探った際、意外にもすぐたどり着いた。


 名が本名だったのだ。


 サヴィス王国とアブルード国は疎遠だ。


 本名でも素性は知れないと思っていたのだろう。


 実際、フィーナの祖父の記録書がなければ、捜索は困難だった。


 ウィグネード家は数ある貴族の一つに過ぎず、所有する領も辺境で、加えてオーロッドは分家の家系だった。


 アブルード国でオーロッドを捜索しようとしても、ウィグネード家を一般市民は知らなかった。


 彼の名が記録書にあったのは、戦果の功労者とて時折、名が挙がっていたからだ。


 記録書にはオーロッドの素性も記されていた。


「城下に主たる住まいを構え、別邸をいくつか保持……」


 フィーナの祖父の記録書を見て、アレックスがうめく。


「なぜフィーナのおじいさんがここまで知っているんだ?」


 記録書に書かれるアブルード国の情報を、持ち回りで読む中、アレックスがフィーナに訊ねた。


 その質問はアレックスだけでなく、カイル、リーサス、レオロード、ザイルも抱いたものだ。


 同じ意見のマサトも『うんうん』と大きく頷いて同意する。


 そうした面々に対し、祖父を知るフィーナだけが、なぜ疑問に思うのかと不思議そうに首を傾げた。


「おじいちゃん、物知りですから」


「物知りで納得できる域じゃない。

 博学と時事に詳しいは別だよ。

 自分の国じゃなくて、他国のことだし」


「おじいちゃん、メモ魔なんですよ。

 物知りだけど、ここに書いてること全部は覚えてませんよ」


「いや、そうじゃなくて……」


『薬草のこと、詳しく書いてるなら理解できる。

 軍の情報なんて、薬草関係ないのに何でメモってたのか、そこがわかんねーんだよ』


 以前、フィーナと祖父の記録書の話をしたマサトが、再度想いを口にした。


 一度は何となく納得できた気がしたが、改めて考えるとやはり納得できない。


 マサトの言葉に、フィーナはフィーナで「なぜ不思議に思うのか、わからない」と首を傾げた。


「メモしてただけじゃないの?」


『だーかーらー。

 戦績は公表されても、家の事情とか住んでる場所とか。

 調べないとわかんねーだろ。

 普通、公にされねーもん』


「何か気になったのかもね。

 気になったら、調べないと気が済まない人だから」


『……他国の少将、気になる理由がわかんねーよ……』


「それは私もわかんない。

 おじいちゃん、変わってるから」


「あはは~♪」とあっけらかんに笑うフィーナは「祖父はそう言う人」と割り切っていた。


 フィーナ以外の面々は、納得しきれないものの、受け入れるしかなかった。


 腑に落ちないものの、捜索の助けとなっているのは事実だ。


「もしや、フィーナの雑多な知識は……」


『じーさんの日記も、少なからず影響してんだろうな』


 ふと呟くカイルに、マサトも同意する。


 気になったものを何でも書きとめる祖父、気になった記述を読み込む孫。


 この祖父あってのこの孫と、血の繋がりを感じる。


 フィーナ達はオーロッドの住まいがある町の近くに野営を構え、ザイルとリーサス、アレックスとレオロードが交代で状況を探る。


 邸宅の人の出入り、周辺に聞き込みをしたところ、オーロッドは長く邸宅に戻っていないと言う。


 今は弟が邸宅の管理を任されているそうだ。


「周辺の話では、別邸で過ごす機会も多いそうです」


 街の人ごみより、森など自然の中で過ごすのを好んでいると言う。


 武芸の鍛練も、周囲を気にせず出来るからだろうと、周辺の住民は言う。


「時折、森の方から爆音が聞こえるそうです。

 オーロッドの魔法の訓練だと言われています」


『森での音がここまで聞こえるって……。

 どんだけの威力のある魔法、使えんだよ……』


「あくまで噂ですが」


 報告するアレックスに、うめくマサト。


 マサトの言葉に、アレックスは苦笑した。


「しかし、おかげで所在の目途もつきました」


 アレックスと共に情報収集に出ていたリーサスが、地図を広げる。


 地図にはオーロッド所有の別邸が二つ、丸が付けられている。





休日だったので、書く時間がありました。


新章突入です。

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