58.閑話 4
ザイルの指導の元。
ドルジェで武芸や魔法の鍛練を共にした時は、フィーナは何も言っていなかった。
技術を認めるそぶりは全くない。
驚くリーサスに、カイルは口元を緩める。
「悔しいから言わないと言っていたがな」
ザイルの指導下での鍛練時。
フィーナが先んじていた護身術が数日で先を越され、今ではリーサスが手加減しているとわかる。
それがフィーナには悔しくてならなかった。
「魔法では負けてないと、強がっていたがな」
信じられない思いで話を聞くリーサスにカイルは告げる。
「一度手合わせをしたいんだが」
リーサスは即「とんでもない」と断ったが、カイルは引き下がらなかった。
「他の者の技量は知っている。
リーサス、そなたの技量も知っておきたい」
そう言われるとリーサスも断りきれず、自主練用の木刀でカイルと対峙した。
結果はリーサスの圧勝だった。
圧勝だったが、リーサスは驚きを拭えない。
カイルがセクルトに入学する前の剣の実力を知っている。
「王族のたしなみ」と思っていた技量が、今のカイルは騎士学校卒業生に匹敵する。
ドルジェでザイルの指導を受けたからだろう。
カイルの技量がザイルの及第点を越えなければ、同行を許さないと聞いている。
カイルが同行しているということは、ザイルが及第点を出したのだろう。
負けたカイルも素直に結果を受け入れた。
セクルト入学前のカイルを、リーサスは知っている。
「ずるをした」との言いがかりも覚悟していたが、それもない。
事実をそのまま受け止めている。
拍子抜けした心地のリーサスを、カイルはカイルで実力を認めた。
「魔法はもっと鍛練すべきだがな」
呪文だけで硬盾を唱えたものの、発動しなかった点を、カイルが指摘する。
自分でもわかっていたリーサスは、気まずく思いながらも素直に受け止めた。
同時に――リーサスはカイルの魔法に驚いていた。
硬盾の強固さ、呪文を唱えて発動するまでのスムーズな流れ。
長兄ルディ、第一王位継承者オリビア。
注目を集める二人と比べて、存在が隠れがちだが、カイルも非凡な才能を持っている。
なぜか気付かれていないが――。
(変わられたのはセクルトに入られてから――)
元々セクルト貴院校は、管理する部署は中央政権に属するものの、外部から干渉できない特殊さがあった。
貴院校での成績が、卒業後就く部署に影響するためだ。
在学時、外部からの干渉を受けないように、貴院校での生活は外部に漏れにくく、外部からも干渉されにくい環境になっていた。
カイルの変化は貴院校に入ってからだ。
故に今現在、カイルは注目されていないのか――。
カイルの変化の理由も、リーサスは察しが付いていた。
二人の噂は聞いていたが、眉つばだと思っていたが。
共に旅をし、生活をする中で考えを改めた。
噂と現実は違ったが、それはそれで「どうなのだろう」と悩ましい。
「カイル~~~っ!!」
少し離れた場所から、フィーナがカイルを呼びながら駆けてくる。
嬉々とするフィーナを見て、リーサスは頭を抑えた。
カイルは呆れたため息をついている。
カイルもリーサスも、フィーナが言わんとすることを悟っていた。
「疾風遊戯で試したいことあるんだけど!」
実験に付き合って欲しい。
告げるフィーナに、カイルは呆れながらも了承した。
連れだって歩く二人を見送りながら、リーサスは複雑な心境だった。
カイルとフィーナ。
並んで歩く二人は、噂のように交際中に見える。
――しかし。
これまでの旅路でリーサスも察した。
仲がいいのは確かだが、カイルの方が強くフィーナを想っていると。
「護衛だから」
――と、旅の当初、リーサスは常にフィーナの側に居ようとした。
そのリーサスとフィーナの間に、なぜかカイルが割り込んでくる。
最初は「フィーナと話すから」と思っていたが、頻繁にそうした状況になるので不思議でしかたなかった。
アレックスとレオロードに、相談混じりで話すと、二人が何とも言えない、微妙な表情を浮かべ、対処法を明言しなかったことで、リーサスも事情を察した。
噂は本当だった。
――カイルがフィーナに思いを寄せているのは。
フィーナの気持ちはよくわからない。
フィーナがカイルに接する態度は、友人、同級生の部類だ。
共に遊ぶ子供同士のじゃれあい方だ。
ザイルから、カイルとフィーナが交際している噂は、周囲への牽制だとも聞いていた。
フィーナもその辺りを理解した上で、カイルと接しているのだろう。
フィーナの真意がどうであろうと――カイルに想いを寄せていても、両思いであろうとも。
互いの思いが将来の関係に繋がりはしない。
両思いでも、セクルト貴院校に在籍している間の関係だ。
フィーナのカイルへの態度が、それを理解したうえでのものなのか、何もわからないままの自然体なのか。
リーサスにはわからなかったが。
……ただ。
二人の、互いに信頼を寄せる関係が続くよう、思っていた。
更新遅くなりました。
すみません。
仕事が変わって、慣れなくて、日々残業してます。
書く時間がない……。
閑話はここまでです。
魔法をもっと書きたかったんですが、雹の仕組みを勘違いしたのがわかったところで諦めました……。
次はアブルード国です。
アルフィード捜索、始まります。
話の展開はまったく考えてません。(苦笑)
どうするかはキャラ任せです。
どう動くのかなぁ。
どう探すのかなぁ。
私もわかりません。




