55.閑話 1
◇◇ ◇◇
スヴェイン皇国でローラ達商団と別れてアブルード国へ向かっている時だった。
森の中の街道を進む中。
人相の悪い男たちが立ち往生して街道を塞いでいる。
「盗賊?」
『……だろうな』
男達を見てフィーナが呟いた言葉にマサトが同意する。
下卑た笑い、小馬鹿にした表情、威圧的な態度。
ガラの悪さ、人相の悪さも含めて、馬車の荷台からでも道をふさぐ面々の様子が見えた。
その数、およそ二十。
「命が惜しけりゃ、有り金と荷物、全部置いてきな」
含み笑いを漏らしつつ、頭と思しき人物が告げる。
御者をしていたザイルはため息をついて、側で騎乗しているリーサスと、無理矢理同行したアレックスとレオロードの二人に目配せをする。
いつでも対処できると、リーサス、アレックス、レオロードが頷いて答えた。
ザイルと三人のやり取りを、荷台から見たフィーナは「ちょっと待って」と、ザイルに背後から小声で話しかけた。
フィーナはひそめいた話で、ザイルに「試してみたい魔法」の相談をした。
話を聞いたザイルも興味があったので、フィーナの案を許可した。
――ただ。
フィーナの魔法は唱えてから行使に時間がかかるので、時間稼ぎを頼まれた。
許可を受けたフィーナは早速、魔法を唱えた。
「――水宴」
フィーナの呪文を確認しつつ、ザイルは馬車を止めたまま、返事をせず無言を通す。
返事をしないザイル達に、盗賊の頭はしびれを切らして声を張り上げた。
「聞こえてんのか!?」
「聞こえてますよ。応じるつもりはないので答えなかっただけです」
ザイルの返答に、頭は下卑た笑いを深めた。
「俺達を知らねーみてーだな?
俺たちは国でも恐れられてる――」
「――もういい?」
『それだけありゃ充分だろ』
頭の口上途中で、フィーナとマサトが「行使準備ができた」と告げる。
フィーナとマサトの話を背後で聞いたザイルは、頭ににっこり微笑んだ。
「やっちゃってください。」
「――なんだと?」
ザイルがフィーナに告げた言葉は頭にも聞こえていた。
面と向かって言われた頭は、自分に言われたと感じたものの、意味がわからず眉を潜める。
フィーナはザイルの許可を受けて、次の魔法を唱えた。
「解!」
フィーナが呪文を唱えた数十秒後。
盗賊団に無数の雹が降り注いだのだった。
「どわぁぁぁ!?」
「うぎゃぁああ!!」
「いだだたたっ!!」
雹の襲来を受けた盗賊団は混乱していた。
彼らを困惑させた最大の理由は、十数メートルしか離れていないのに、ザイル達の馬車に被害がないことだった。
これは相手の魔法なのか?
広範囲の、氷の礫が空から落ちて来る魔法など、聞いたこともなければ経験したことも無い。
魔法が使えるのは国でも位のある者だ。
目の前の彼らは、高貴な面々なのか。
盗賊団は焦った。
一般国民と思って襲撃したが、地位の高い面々を襲撃したとなると、自分たちの立場が危うくなる。
謝って許してもらえなければ、警護官の追跡を受けるだろう。
警護官に捕縛された後、罪を問われ、認定された時の罪人者の状況は頭も聞いて知っている。
盗賊行為は一般人に対してでも重い罪なのに、それを位ある方々にしてしまったら、どうなるか。
盗賊団全員、死刑となってもおかしくないだろう。
盗賊団は青い顔で逃げ出した。
ザイルは盗賊団の勘違いに気付いていたが、あえて何も言わず、逃げる彼らを捨て置いた。
盗賊団がいなくなった後。
「どうして!?」
――と、フィーナが声を上げてザイルとマサトに抗議する。
書かなくてもいいんですけど、魔法に関して触れておきたかったので、書きました。
仕事、変わってなかなかです……。




