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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第九章 アブルード国の思惑
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53.アブルード国へ 23


 ザイルの思惑通り、エトワールへの注目が高まり、彼女の能力も再評価された。


 ――それでも。


 婚姻を契機に、エトワールは騎士を辞し、家庭に入った。


 エトワールがロイヤルナイツに採用されたとしても、期間は一時的だろう――。


 それがエトワールを採用しなかった面々の言い分であり、グレイブもその考えに同意した。


 ――グレイブが、エトワールが例え数年でも、ロイヤルナイツに在籍して、成し得たかったものがあったと知ったのは、後のことだ。


 過去の事情もあり、グレイブはザイルに良い心証がない。


 実力はあるからと、その時、騎士団を所有したいと申し出たオリビアに、騎士の一員としてザイル

をあてがった。


 オリビアもザイルも試用期間として共に過ごす中、意外にも二人は馬があったようだった。


 しばらく、ザイルはオリビアの騎士として過ごしていた。


 グレイブとしてもオリビアの騎士団一員なら、行動が把握できる。


 そのザイルがオリビアの元を離れて数年。


 オリビアの側仕え、アルフィードの両親の元にいると知ったのは、ザイルがフィーナの同伴者となった時だった。


 フィーナの伴魂が珍しいので、その護衛としてオリビアが命じた部分もあるのだろう。


 フィーナとアルフィードの実家は、王都から馬車で半日かかる場所にある。


 ザイルもその村に住んでいる。


 なぜカイルがザイルの元に通うのか――。


 理由は不意を打って、呼びだしたカイルから聞きだした。


 グレイブに反対されたら、極秘裏にフィーナ達に同行しようと考えていたという。


 協力者として、ザイルに頼んでいた。


 ザイルは断ったが、食い下がるカイルに折れる形で「試験を合格できたなら」と告げた。


 試験は「自衛」「市井での生活」「身支度」等、庶民として過ごせるかを見るものだった。


 極秘裏に同行するのだから、特別扱いはできない。


 素性は伏せて、庶民と同じ待遇を受けいれられるか、実際、行動できるか。


 それらを確認する試験だった。


 後にザイルは言う。


「早々に断念すると思っていた」


 ――と。


 ザイルが試験を提示したのは、カイルを諦めさせるためでもあった。


 そう考えてのザイルの試験だったが、当のカイルはザイルの想定以上の対応力を見せた。


 カイル単独で市場で買い物する様子を、遠目に見守っていたザイルも「合格点」を出した。


「市井での生活」「身支度」はすぐに合格点を出したものの「自衛」は時間がかかった。


「自衛」はザイルの訓練を受けた後、合格を受けたのだ。


 すべての合格を得たカイルは、国王であるグレイブの許可は受けていると偽って、ザイルに同行を願い出た。


 ザイルもカイルから「許可がおりている」と聞いた話を、違和感を覚えつつ信頼した。


 後に。


 カイルの思惑は、不意打ちで呼びだしたグレイブに追及され、知られた。


 ザイルの元に通う理由を聞かれ、最初は返答を濁していたカイルも、詳細をグレイブが知っているとわかると、観念して詳細を明かしたのだ。


 カイルの考えに、グレイブは頭を抱えた。


 自分の立場をわかっているのかと、グレイブはカイルに諭した。


 極秘裏にフィーナに同行したとして、カイルの行為がどれほど周囲に迷惑をかけるのか。


「位を剥奪されるかもしれんのだぞ」


 今の立場――王族として、王子としての立場を。


 グレイブとしてはカイルを思いとどませようとした脅しだった。


 同時に、最悪、その可能性もありえた。


 ルディとオリビア。


 二人の後継者を取り巻く環境が、カイルにも影響を与えている。


 万が一の対抗馬を、早急に潰しておきたい輩もいるだろう。


 カイルの行動は、そうした者にとっては「王子にふさわしくない」と格好の餌食だ。


 ――グレイブの誤算は、想像以上にカイルが先を見通して行動していたことだ。


 位剥奪。


 そうした事態もあり得ると、カイルはわかった上で行動していた。


「――私は校外学習で、エルドに助けられました」


 静かに、カイルは告げる。





ストック切れと、早朝の仕事、休日出勤があって、更新が遅れました。

カイルがお忍び同行するまでの経緯です。

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