53.アブルード国へ 23
ザイルの思惑通り、エトワールへの注目が高まり、彼女の能力も再評価された。
――それでも。
婚姻を契機に、エトワールは騎士を辞し、家庭に入った。
エトワールがロイヤルナイツに採用されたとしても、期間は一時的だろう――。
それがエトワールを採用しなかった面々の言い分であり、グレイブもその考えに同意した。
――グレイブが、エトワールが例え数年でも、ロイヤルナイツに在籍して、成し得たかったものがあったと知ったのは、後のことだ。
過去の事情もあり、グレイブはザイルに良い心証がない。
実力はあるからと、その時、騎士団を所有したいと申し出たオリビアに、騎士の一員としてザイル
をあてがった。
オリビアもザイルも試用期間として共に過ごす中、意外にも二人は馬があったようだった。
しばらく、ザイルはオリビアの騎士として過ごしていた。
グレイブとしてもオリビアの騎士団一員なら、行動が把握できる。
そのザイルがオリビアの元を離れて数年。
オリビアの側仕え、アルフィードの両親の元にいると知ったのは、ザイルがフィーナの同伴者となった時だった。
フィーナの伴魂が珍しいので、その護衛としてオリビアが命じた部分もあるのだろう。
フィーナとアルフィードの実家は、王都から馬車で半日かかる場所にある。
ザイルもその村に住んでいる。
なぜカイルがザイルの元に通うのか――。
理由は不意を打って、呼びだしたカイルから聞きだした。
グレイブに反対されたら、極秘裏にフィーナ達に同行しようと考えていたという。
協力者として、ザイルに頼んでいた。
ザイルは断ったが、食い下がるカイルに折れる形で「試験を合格できたなら」と告げた。
試験は「自衛」「市井での生活」「身支度」等、庶民として過ごせるかを見るものだった。
極秘裏に同行するのだから、特別扱いはできない。
素性は伏せて、庶民と同じ待遇を受けいれられるか、実際、行動できるか。
それらを確認する試験だった。
後にザイルは言う。
「早々に断念すると思っていた」
――と。
ザイルが試験を提示したのは、カイルを諦めさせるためでもあった。
そう考えてのザイルの試験だったが、当のカイルはザイルの想定以上の対応力を見せた。
カイル単独で市場で買い物する様子を、遠目に見守っていたザイルも「合格点」を出した。
「市井での生活」「身支度」はすぐに合格点を出したものの「自衛」は時間がかかった。
「自衛」はザイルの訓練を受けた後、合格を受けたのだ。
すべての合格を得たカイルは、国王であるグレイブの許可は受けていると偽って、ザイルに同行を願い出た。
ザイルもカイルから「許可がおりている」と聞いた話を、違和感を覚えつつ信頼した。
後に。
カイルの思惑は、不意打ちで呼びだしたグレイブに追及され、知られた。
ザイルの元に通う理由を聞かれ、最初は返答を濁していたカイルも、詳細をグレイブが知っているとわかると、観念して詳細を明かしたのだ。
カイルの考えに、グレイブは頭を抱えた。
自分の立場をわかっているのかと、グレイブはカイルに諭した。
極秘裏にフィーナに同行したとして、カイルの行為がどれほど周囲に迷惑をかけるのか。
「位を剥奪されるかもしれんのだぞ」
今の立場――王族として、王子としての立場を。
グレイブとしてはカイルを思いとどませようとした脅しだった。
同時に、最悪、その可能性もありえた。
ルディとオリビア。
二人の後継者を取り巻く環境が、カイルにも影響を与えている。
万が一の対抗馬を、早急に潰しておきたい輩もいるだろう。
カイルの行動は、そうした者にとっては「王子にふさわしくない」と格好の餌食だ。
――グレイブの誤算は、想像以上にカイルが先を見通して行動していたことだ。
位剥奪。
そうした事態もあり得ると、カイルはわかった上で行動していた。
「――私は校外学習で、エルドに助けられました」
静かに、カイルは告げる。
ストック切れと、早朝の仕事、休日出勤があって、更新が遅れました。
カイルがお忍び同行するまでの経緯です。




