49.アブルード国へ 19
「アブルード国に行って、アルフィード様を助けようとしている」
サリアから話を聞いた当初、カイルは「できるわけがない」と思っていた。
簡単に他国に行くなどできないし、行程や下準備など、フィーナの手には負えないと思っていたのだ。
しかしオリビアも説得されたと聞き、オリビアからフィーナの渡国計画を聞いて理にかなっていると知る。
フィーナの意志は固い。
説得は無理だろう。
(――だったら)
カイルはグレイブに、フィーナに同行してアブルード国へ赴く許可を願い出たのだった。
仕事を終えた夕食後、グレイブはカイルから面会を求められた。
ルディやオリビアに比べて、カイルとの面会は極端に少ない。
ルディとオリビアは、それぞれ受け持つ仕事の件での相談が多く、学生のカイルにはまだそのように任せている部分が少ないためでもあった。
――しかし。
そういえばと、グレイブは思い出す。
ルディもオリビアも、学生寮長だったとき、相談に来ていたと。
カイルも学生寮長だが、グレイブに相談したことがない。
ルディとオリビアを重ねて、カイルの面会も学生特有のものだろうとグレイブは考えていた。
面会許可を得たカイルが、グレイブの私室に神妙な面持ちで入室し、願い出た内容は、学生らしからぬものだった。
アブルード国へ向かうフィーナ・エルドへの同行。
想定外の話に、グレイブは思考が停止した。
フィーナの渡国は、姉のアルフィードに絡んでのことだろうと想定できるが、それになぜカイルが関係するのか。
(――いや……)
そう言えばと思い出す。
カイルとフィーナが恋仲との噂があったと。
噂はグレイブも軽く耳にしていた。
学生の色恋は周囲が詮索するのは無粋とされていた。
グレイブも風習に倣って探ろうとはしなかった。
傍目には友人同士のようで、色恋の雰囲気を感じなかったのだ。
二人の仲が密やかに取りざたされたスーリング祭でも、グレイブは見てしまった。
ダルメルの薄藍インクのお披露目が上手くいったあと、人目を避けるように部屋の隅に下がった二人が。
軽いハイタッチを交わして、成功を喜んでいた姿を。
それは恋人と言うより――。
(成功を共に喜ぶ同士のようだった)
庶民ながら優秀な成績を修めるフィーナ・エルド。
彼女がカイルに良い影響を与えていると、グレイブも感じている。
そう思っていたが。
まさか自分の立場を考えず、簡単にフィーナに同行したいと言い出すほど、影響を受けるとは思っていなかった。
グレイブは王族としての立場など、カイルに諭した。
「重々、心得ています」
カイルはそう返事をしつつ、引き下がらない。
自分なりに考えた案をグレイブに示してくる。
それらの案に対し、グレイブは異論を唱えた。
アブルード国がどのような国か、サヴィス王国として把握しきれていない状態で――その上、国民をかどわかした疑惑がある国へ赴くなど……。
カイルの案が、グレイブが唸る名案でも、今の状況では許可するなどありえなかった。
しかしカイルは引き下がらない。
最後には苛立ったグレイブが声を上げた。
「くどい! 許可できぬと言っているだろう!」
「――どうしても、ですか」
「そう言っている」
カイルはその場は引き下がった。
グレイブもしばらく苛立ちを抑えられなかったが――。
他国へ行くのを「渡国」としています。
造語です。多分。
「渡航」は他国へ行くのに海を越える前提だろうと思い。
陸路なので「渡国」としています。
前回からルディ、オリビア、カイルの父、国王グレイブからの視線の話です。
もう少し続きます。




