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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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16.スーリング祭【入場直前】


 控室に、手持ちベルを鳴らす音が響き渡った。


 音の方に室内の視線が集まる。そこには執事姿の初老の男性が控えていて、頭を下げると側の扉をゆっくりと開いた。


 扉の開き具合に伴い、次第に大きく聞こえてくる曲に導かれる様に、それぞれの学年の生徒が扉の方へと足を進める。


 最初に扉の前に並んだのは三学年の生徒だった。


 続いて二学年、そして最後尾にフィーナとカイルが並ぶ。


 差し出されるカイルの手にフィーナが手を乗せて入場の準備を整えた。


 カイルのエスコートを受けながら、フィーナは次第に強くなる胸の鼓動を感じていた。


 これまで、王族も上流貴族も意識していなかったのだが、身近に迫ると我知らず、体が緊張感に包まれる。


 三学年生から名を呼ばれて入場していく。


 次がフィーナとカイルの番になったとき、緊張は最高潮に達した。


(間に合わなかった……)


 胸の内で自身の伴魂を呼び続けていたのだが、近くに気配を感じない。


 サリアも手助けしてくれたものの、時間が足りなかった。


 敷地内に伴魂の気配は感じる。城内ではないものの、近い場所ではあった。


 ただ、呼び声に反応してのものか、気まぐれで散歩しているのか、判別がつかなかった。


 上級生が入場する度に、会場から歓声が起こる。


 最初はなぜかわからなかったが、直前の上級生が入場した時に、状況を理解した。


 自身の伴魂を披露するように、入場していたのだ。


 スーリング祭に参加する生徒の伴魂は、色彩鮮やかな伴魂ばかりだ。


 ――スーリング祭の最初の見せ場でもある


 そう言っていたカイルの言葉をフィーナは思い出していた。


 同時に、自分の考えの甘さを痛感していた。


 これまでネコとは、何度も口げんかをしていた。


 数日経てば何事もなかったように、これまでと変わらない関係となっていたので、今回の口げんかも特に気にしてはいなかった。


 不機嫌が長く続くとは考えていなかったのだ。


 スーリング祭に参加することになって以来、目まぐるしい日々の中、伴魂との仲まで意識が向かなかったのだが、そのうち、いつものようにそれまでと変わりない関係に戻れると思っていた。


 呼べば応じてくれると思っていた。


 数日前から今も、これまでにない強い想いで、自身の伴魂を呼んでいるのに、側に来てくれない。


 気配は感知できる範囲内にあるのだが、離れているから細かな感情までわからない。


(このまま来てくれなかったら――)


 そう思うと、フィーナは言いようのない不安に駆られた。


 それは他の者だったら「ありえない」と歯牙にもかけない不安だった。


 伴魂は主の魔力を生の糧とする。離れることも主の意思に背くこともあり得ない。


 主に背くこと、それは生の糧を失うと同義だからだ。


 それが伴魂に対する通常理念だった。


(でも――)


 フィーナは、薄々感じていた。


 数日でも主と離れていても大丈夫な伴魂。


 人語を介して魔法に関しての知識に長けている獣。


 目にしたことはないが、おそらく自身で魔法を操ることも可能ではないかと思える生物。


 伴魂の理念に当てはまらない、空色の瞳を有する希少な白い体毛の生命体。


 伴魂は主の魔力を糧とするため、主に従順なのだが――。


(――私の魔力を、糧にはしていない)


 それがなぜなのか、どのように生を維持しているのか、魔力を得ているのか。


 フィーナにはわからないことばかりだったが、薄々気付きながら、それらを敢えて直視しないようにしていた。


 気付けば、自分が必要不可欠の存在ではない不安を抱くことになる。


 確信してしまうと、いずれ離れていくかもしれない不安を抱えることになる。


 ……そうした不安から、目を逸らしていたかったのだ。


 考えごとに意識を取られていたフィーナは、強く握られた手に、はっと意識を取り戻した。


 手の方を見ると、隣にいるカイルと目が合った。


 様子を伺うカイルも、緊張に包まれている。


 自分たちの番が近いのだと感じて、フィーナは一度強く目を閉じた。


 そうした後、目を見開いて気持ちを切り替える。


 やがてカイルとフィーナ、二人を紹介する声が室内に響いた。


「一学年生代表、カイル・ウォルチェスター第二王太子殿下、フィーナ・エルド様」


 声に応じて、二人は会場へと足を踏み出した。




 

 

今回は少し短めです。

うーん。やっぱりなかなか書けないです。

フィーナの心情が少し書けました。

気づいてたけれど、見ないふりしてたものに関してです。

いつか書こうと思ってましたが、なかなか書くタイミングがなくて今になりました。

話の流れでは、もう少し先になりそうだったんですけど。

舞踏会は「開催」までは大まかなプロット的に考えてて、織り込もうと思っていたことがいくつかあるんですけど、内容がぼんやりしてたこともあって、なかなか書き進められませんでした。

ようやく情景が動きをもって見えてきたので、少しは書きやすくなったかな。と思います。

※カイルの呼び名を少々変えてます。(皇太子→王太子)(2019.5.8)

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