48.アブルード国へ 18
公務や書類仕事を終え、自室で休んでいる時に、三人の子、揃っての面会を求められた。
子同士が互いに微妙な感情を抱いていると、グレイブも知っている。
その三人が共に訪ねて来る珍しさに驚きつつ――しかし話を聞いて怒りと苛立ちを我慢できなかった。
話は校外学習時のオーロッドの襲撃から、アルフィード拉致に関するものだった。
「なぜその時に話をしなかった」
温厚なグレイブの厳しい叱責に、オリビアは謝罪で顔を下げたまま、ビクリと身震いして委縮した。
「――申し訳、ございません」
グレイブはこれまで、子らに怒声を上げることも、叱りつけたこともなかった。
やんわりとした忠告をするだけだった。
その為、ルディもオリビアもカイルも、グレイブは怒ることもないほど、温和な性格だと思い込んでいた。
それは三人の勘違いだった。
三人にはそれぞれ母が存在し、グレイブはそれぞれに教育を任せている。
忠告しても改善しなければ厳しい叱責をするつもりだったが――これまでは忠告で改善されていたため、怒声を上げる機会がなかったのだ。
しかし今回は状況が違う。
なぜ自身が危険な目にあった報告をあげなかったのか。
――秘密裏にしようとしたオリビアの考えもわからなくはないが、それはオリビアが判断することではない。
「おおかた、ルディの差し金とでも思ったのだろう?」
皮肉を多分に含んだグレイブの物言いに、オリビアが驚いて反射的に顔を上げた。
見開くオリビアの瞳に、激しい動揺が見える。
動揺し――ルディに戸惑いの眼差しを向けた。
同時に、グレイブの物言いにオリビアは困惑した。
グレイブはこれまで、子同士の微妙な感情に触れなかった。
どう思っているか、感じているか。
表面上の関係しか知らないのだと思っていた。
心の奥底の、薄黒い部分を言い当てられ、オリビアはどう答えていいか、わからない。
そのオリビアに助け船を出したのは、意外にもルディだった。
「その件については私にも否があります。
行き違いに関して、後日、母も交えて話す所存です。
どうか、陛下の寛大なる御心をもちまして、今一度、反省の機会を与えて下さいますようお願い申しあげます」
ルディの進言は、オリビアも意外だったが、グレイブも意外だった。
三人の子らの関係に変化が生じている――。
グレイブは漠然と感じていた。
ルディの提言を受け入れて、グレイブはそれ以上、苦言を呈すのを控えた。
オリビアの反省している様子が目に見えていたからでもある。
補足的に詳しい話を聞いて、アルフィードの拉致と校外学習時の襲撃を把握した後、グレイブも自身が所有する捜査機関に、極秘裏にアブルード国を調べるよう、通達したのだった。
ルディ、オリビア、カイルが揃って父である国王に面談を申し込んだ時。
話すかどうか、迷っていた事がある。
フィーナの伴魂、マサト。
マサトはアブルード国と浅からぬ関係がある。
グレムハイド伯爵邸後、ルディもマサトの経緯を聞いていた。
アルフィードが攫われた経緯に関わりあるかがはっきりしないため、話すか否か苦慮していた。
マサトはサヴィス王国でも異質の存在だ。
人語を介し、多種多様な知識を持つ生物。
他国――アブルード国がその知識を求めて、この世に呼び出した。
そうした生物が、この国、サヴィス王国に逃れてきた。
保護するのか、潜んでいたと知らなかったと通すのか。
後者の立場をとるなら、国王には伝えない方がいいだろう。
ルディ、オリビア、カイルは、話し合った結果、そう結論を出した。
そうした前提で、校外学習、アルフィード拉致に関して、アブルード国の関与をほのめかしてグレイブに報告した数日後。
カイルは、サリアから「フィーナを止めて」と頼まれたのだった。
王の子3人と、父である国王の関係性を少し。




