44.アブルード国へ 14
「いえ。リーサスは志願しましたよ。
しかしとある面々に「護衛対象に負け続けで世迷言を」と一蹴されたそうです。
ゼファーソン殿も志願されましたが、騎士団長が職を長くはずれるわけにもいかず。
結局、志願騎士間での勝ち抜き戦で選ばれたのが、リーサスとのことです」
「いつの間にそんな大事に――」
「世間一般には伏せられていますが、騎士の間ではアルフィード嬢の拉致は暗黙としながら公然ですから。
ドルジェの聖女を憧憬する者も少なくありません。
緘口令も、いつまでもつか――」
ザイルが懸念したとおり、フィーナ達が出立して数日後、アルフィードが攫われた件は密やかに広がっていった。
その前に王都を出たフィーナ達は、後にその事実を知る。
今のフィーナの心配はリーサスの不機嫌さだ。
気を遣うのは面倒で仕方ない。
荷馬車の御者はザイルとリーサスが交互に行う。
初めはザイルが御者を勤め、リーサスは護衛として馬に乗り、馬車と平行していく。
御者と護衛は交互にする手はずだった。
フィーナ達の馬車はローラとラナが乗る馬車の次、長く列を成す中盤の位置になった。
道中の行動はローラの商団と共にする。
リーサスの機嫌が早く治るよう、王都を出立したフィーナは願っていた。
馬車に並走するリーサスを伺いながら、馬車の振動対策に、寝袋や着替え、タオル等、柔らかい素材を積み重ねた一角に座ったり体を横たえたりして、馬車酔い対策を講じた。
王都を出てしばらく。
街道を進んでいると、後方が騒がしくなった。
騒ぎは前方へと波及し、ローラとフィーナがいる馬車に到達した。
事情を把握するため、ローラが全員に止まるよう指示する。
「何事?」
状況を把握しようと馬車を降りたローラに、使用人の一人が慌てて駆け寄った。
「お嬢様! ど――どういたしましょう!?」
「だから何」
眉を潜めるローラに、駆け寄った使用人も気が動転しているらしく、要領を得ない。
あたふたとしている間に、騎乗した騎士が二人、ローラ達馬車の側に来た。
ラナとフィーナは、馬車から顔を覗かせて状況を伺っていた。
騎乗した騎士を見たフィーナは、驚きに声を上げた。
「アレックス様、レオロード様!?」
「フィーナ!?」
互いが互いに驚いてすぐ。
アレックスとレオロードは互いに顔を見合わせた。
フィーナが乗る馬車の側に行くと、御者をしていたザイルとフィーナに断って、荷改めをさせてほしいと頼んだ。
「かまいませんが……」
なぜか返事をしないザイルに変わって、フィーナが答える。
何も言わないザイルを怪訝に思いつつ、馬車内の荷物を見るアレックスとレオロードを静観していた。
「――誰やの、あの二人」
荷改めの間、ほろ付きの馬車から下りたフィーナに、そそそ、と近寄ったローラが訊ねた。
そう言えば、スーリング祭の衣装合わせの場では、アレックスとレオロードは、会場外に控えていたなと思い出す。
「カイル――殿下の護衛騎士のお二人です」
「カイル殿下の?」
カイルの護衛騎士がなぜこのような場所に。
護衛なのに、カイルから離れて何をしているのか。
ローラと同じ疑問を、フィーナも思った。
ストック切れの為、短いです。すみません。




