38.アブルード国へ 8
◇◇ ◇◇
フィーナは渡国手段、アブルード国に行った後のアルフィード捜索手段等、現実的に調べていた。
「リージェさんも探すつもりだけど、ごめん。
今回はお姉ちゃんを優先させて」
リージェ捜索はアルフィードの件が決着つき次第、方策を考えると言う。
リージェ探索の為に集めていた資料だが、今はアルフィード捜索を優先したい。
攫われた点を考えると、アルフィードの目撃情報での収集は難しいだろうとも考えていた。
ならば、オーロッドの目撃情報を集めた方が、有益ではないのかとフィーナは考える。
マサトはアブルード国でウィグネード家を聞いたことがない。
アブルード国の主要貴族でないだろうと思っていたところを、フィーナの祖父の記述書で裏取りする。
ウィグネード家は代々、軍所属の騎士を多く輩出している中級貴族であること、領地は首都から離れた西側にあること。
そして。
『三男、オーロッドは少将として城下に居住を構え、勤務している――』
フィーナから借りた日記を見て、マサトは呻いた。
マサトがオーロッドもウィグネード姓を知らないのも道理。
オーロッドはここ数年で躍進した者だった。
(――『それより何より……』)
マサトは内心呻きつつ――どうしても我慢できずに声をあげた。
『何でフィーナのじーちゃんアブルード国の内情、こんなに詳しいんだよ!?』
叫ぶマサトに、フィーナはあっけらかんと答える。
「都民なら誰でも知ってるんじゃない?」
『いやいやいや!? ありえねーから!
百歩譲って戦績公表されたって、出身地がどこかわかったって!
現住所は公表されねーよ!』
「どうして?」
『危険だろ! いつ何時、狙われるかわかんねーんだから!』
手をワキワキさせて叫ぶマサトに、フィーナはフィーナで「んん~?」と首を傾げる。
「狙われるって、誰から?」
『そりゃ敵国から――』
「城下って簡単に敵国民が入れるとこなの?」
フィーナの素直な疑問に。
マサトは答えられなかった。
――言われて、気付いた。
敵国の侵入は簡単にはあり得ないと。
あり得ないが、他国の捜査員が潜入している可能性は拭えない。
そうした考えを持ちつつ、マサトの感じた違和感は別にあった。
アブルードで生活していた時、マサトは住まいを公表しないよう言われていた。
仲間もそうしていた。
敵国が攻めてきた時の対策だと聞かされ、そう思っていたが――今考えると、敵国が城下まで攻めて来た時は、国が敗北したと同等だ。
それからの巻き返しは不可能だろう。
――なのに。
リージェも同僚も、所在を明かさぬよう気をつけていた。
それがなぜか。
――今になって不可思議に思えたが、答えがわからない。
考えながら、同時に思い出した。
マサトや同僚は所在を明らかにしなかったが。
功績を上げた貴族面々は、自身の素性や所在を公表していたと。
貴族のオーロッドが公表していたのも、その類と考えると納得できる――。
フィーナの質問の返答を濁しつつ、オーロッドの所在を城下と仮定しての捜索方法を考えた。
城下はマサトも知っている。
アブルード国の城下を思い出しながら、マサトはオーロッドがサヴィス王国で、名や素性を偽らなかったのが解せなかった。
人の名を語っている懸念もあったが、フィーナの祖父の記述によるオーロッドの風貌は本人と合致している。
オーロッドは本来の名と素性で行動していたようだ。
サヴィス王国民が得られる情報からは、自身にたどり着けないと思っていたのだろう。
オーロッドがアルフィードを攫った理由は依然としてわからなかったが、オーロッドへの道筋は見えてきた。
これらの情報を元に、オリビアに相談し、セクルトに休学を許可するよう打診してもらおう。
フィーナとマサトはそう考えつつ、打ち合わせを続けていたのだった。




